News
2023年4月7日

貴重なレアメタルを高純度・低コストで再生。世界市場を見すえ事業を本格スタート―Startup Interview #010 株式会社エマルションフローテクノロジーズ / リアルテックホールディングス

  • facebookアイコン
  • x(旧twitter)アイコン
  • linkedinアイコン
STARTUP INTERVIEW | #010エマルションフローテクノロジーズ | 貴重なレアメタルを高純度・低コストで再生 | 世界市場を見すえ事業を本格スタート

みなさんは、「レアメタル」という言葉をご存じですか?

レアメタルは、電気自動車(EV)やスマートフォン等のハイテク機器など、さまざまな製品に使われている金属です。レアメタルを添加することで素材の金属の強度を増して錆びにくくしたり、電気・電磁的な特性を付与するなど様々な機能を付与することができ、レアメタルは私たちの生活に必要不可欠の存在となっています。

しかし、レアメタルは特定の地域で少量しか採取できないため、将来的な供給量不足が確実視されています。さらに発展途上国の採掘現場では、環境汚染や児童就労の問題も指摘されています。そこで持続可能なレアメタルの供給を可能にすると期待されているのが、「レアメタルのリサイクル技術」です。

実は近年、電気自動車に使われるリチウムイオン電池のリサイクル市場が急速に立ち上がりはじめており、その市場規模は2030年に228億ドルに到達するとも言われています。これに伴い、リチウムイオン電池内のレアメタルを効率的に回収する技術開発も進められていますが、なかなかイノベーションが起きないのが現状でした。

このような中、独自の技術でレアメタルリサイクル業界に切り込もうとする企業があります。日本原子力研究開発機構(JAEA)発の技術ベンチャー、株式会社エマルションフローテクノロジーズ(EFT)です。

EFTがリサイクルに使うのは、高校の化学でも習う「溶媒抽出」と呼ばれる技術。この溶媒抽出を劇的に進化させて、大幅な低コスト化と高性能化を実現しました。

リアルテックホールディングスの投資先の中でもとりわけ平均年齢が高く、経験豊富なメンバーが活躍しているというEFT。一体、どのような企業なのでしょうか。今回は、EFT代表取締役の鈴木裕士(すずき・ひろし)氏とリアルテックホールディングスでEFTへの投資を担当した小正瑞季(こまさ・みずき)に、独自に開発した革新的技術の魅力、創業のきっかけ、採用したい人物像などを語ってもらいました。

​<プロフィール> 鈴木裕士(すずき・ひろし)株式会社エマルションフローテクノロジーズ代表取締役社長/CEO 2003年に日本原子力研究所(現、日本原子力研究開発機構/JAEA)に入所してから、約15年間にわたり中性子利用研究に従事。2018年度にNEDO SSAを受講。その後、JAEA 内にイノベーション推進室を設立し、原子力分野から創出される研究開発成果の社会実装の支援を開始。その活動において長縄との出会いがあり、エマルションフローの普及を目指したJAEA発ベンチャー「株式会社エマルションフローテクノロジーズ」を設立。エマルションフロー技術を活用した事業展開を主導。 [企業サイト]https://emulsion-flow.tech/

物理の常識をくつがえすような、革新的な溶媒抽出技術

—EFTの「エマルションフロー」は、レアメタルリサイクルに使用される溶媒抽出の性能を飛躍的に高める技術だと伺いました。従来の溶媒抽出には、どのような課題があったのでしょうか?

鈴木 そもそも溶媒抽出とは、水相に存在する目的の金属イオンのみを油相側に取り出す技術です。抽出剤を含む油相と金属イオンを含む水相を「混合」すると、油相と水相の界面で抽出剤が金属イオンと結合します。その後、液を「静置」しておくと重力で油相と水相が「分離」して、油相側に金属イオンが抽出されます。この金属イオンを回収して、リサイクルする仕組みです。

つまり、これまでの溶媒抽出には「混合」「静置」「分離」という3つの工程が必要だったんです。しかし、これらの工程がいろいろな問題を引き起こしていました。

「ミキサーセトラー」と呼ばれる従来の溶媒抽出装置では、「混合」した水相と油相を「分離」するための静置部が必要で、どうしても装置が大型化してしまっていました。また、その、分離に時間がかかり効率が悪い点が課題でした。

—なるほど。これらの課題を解決するのが、エマルションフローなんですね。

鈴木 その通りです。エマルションフローは、なんと「送液」の1工程のみで目的物を分離できる革新的な溶媒抽出技術なのです。

エマルションフロー装置では、水と油を非常に細かい粒にして、装置の上から水、下から油をそれぞれ噴射します。水と油の粒が中央部で接触したときに水相から油相に金属イオンが抽出され、抽出が終わると水は下、油は上に流れていきます。この一連の流れが「送液」です。つまり、私たちの装置は「水と油を細かく均一に混ぜて、かつ瞬時に分離する」という、物理の常識をくつがえすような技術を実現しているのです。

水相と油相に分離するための静置部は必要ないので装置を小型化できますし、混ぜながら分離できるので時間もかかりません。この技術によって、生産性は10倍以上、それに伴いランニングコストの削減も可能になりました。また、装置を複数個並べて連続で送液すれば(多段エマルションフロー)、生産性のさらなる向上と99.99%以上の高純度化を実現できると考えています。

【図版】エマルションフロー

—生産性が上がってランニングコストが低下するとは、まさに夢のような技術ですね。

鈴木 そうですね。小型化によってランニングコストが低下すれば、これまで溶媒抽出装置を導入できなかった企業や研究機関にも積極的に使っていただけるのではと考えています。金属精錬やレアメタルのリサイクルなど、溶媒抽出が必要なあらゆる分野で私たちの技術を活用してもらいたいですね。

はじまりは、「研究の社会実装を支援したい」という強い思い

—鈴木さんがEFTを創業されたきっかけを教えてください。

鈴木 私は元々、JAEAで中性子利用研究に取り組む研究者でした。しかし、研究を続けるうちに「JAEAの研究成果をうまく社会に還元できていない」現状にもどかしさを覚えるようになりました。いつからか「研究者ではなく支援者の立場で、研究の社会実装をサポートしたい」と思いはじめたのです。

そんな思いを抱いたことから、2018年に研究開発型ベンチャーの支援人材を育成するNEDO SSA(NEDO Technology Startup Supporters Academy)プログラムに参加して、創業支援を実地で学ぶことにしました。そこで学んだ経験を発信するうち、JAEA内部で「新しい取り組みをはじめよう」という機運が高まってきたんです。「よし、風向きがいい方向に変わったな!」と思いましたね。

—日本原子力研究開発機構(JAEA)という大きな組織の内部で、どのように起業へと動いていったのでしょうか?

鈴木 当時私が在籍していたJAEAの原子力科学研究所で「イノベーションを創出する研究所」というビジョンを掲げることになり、私がそのアクションプランの作成を担当することになったんです。これがきっかけで、2020年にJAEA内にイノベーション推進室を立ち上げました。イノベーション推進室では、私が中心となってJAEA内の研究成果を拾い集め、社会実装を支援していました。その中で出会ったのが、のちにEFTの共同創業者となる長縄弘親です。

長縄の研究成果は革新的で、十分に事業化を狙えるものでした。長縄が元々ベンチャー創業に興味を持っていたこともあり、ぜひ社会実装を目指そうということで、長縄への支援を開始したんです。長縄は「根っからの研究者」でビジネス面はあまり得意ではなかったので、ビジネスモデルのブラッシュアップやプレゼン対策などには私が深く関わっていきました。

—最初はあくまでも支援者の立場だったんですね。リアルテックファンドとの出会いはいつだったのでしょうか。

鈴木 リバネスさんが主催する第4回茨城テックプランターグランプリに出場して最優秀賞をいただいたのがきっかけであり、本格的な創業に向けての大きな転換点でした。実は、このイベントで長縄のプレゼン後に真っ先に質問してくださったのが、リアルテックファンドの小正さんだったんです。

小正 長縄さんのプレゼンはよく覚えています。EFTの技術ポテンシャルと技術実証のレベルは出場チームの中でもずばぬけており、「すごい」の一言でした。「こんなにすごい技術が眠っているはずがない!」と、逆に疑ったくらいです(笑)。最優秀賞はEFT以外にあり得ないと思いました。

鈴木 そう言っていただけて、本当にありがたいです。イベント後は、小正さんやリアルテックホールディングス代表取締役の丸幸弘さんにアドバイスをいただけるようになり、ミーティングを重ねながらビジネスモデルの構築を進めていきました。

—最優秀賞を獲得したこともあって、創業は当初から順調に進んでいったのでしょうか。

鈴木 いや、そうでもなかったんですよ。実は最初の頃のミーティング中に、一度丸さんにお𠮟りを受けたことがありました。「スタートアップをやるなら、近視眼的にならずに大きな目標を持って走り抜けろ!中途半端な目標を立てるならスタートアップなんてやめた方がいい!」と、厳しいアドバイスをもらったんです。

—それは、普通の人だと心が折れてしまいそうですね・・・。

鈴木 ところが、私はなぜか心が折れず「じゃあやってやろうじゃないか!」と逆に奮起しまして(笑)。そのとき本当に、ディープテックスタートアップの世界に両足を踏み入れる覚悟ができたんだと思います。そこから、小正さんの助けを借りてビジネスモデルをさらにブラッシュアップしていき、2021年7月の創業直後にリアルテックホールディングスさんから出資していただきました。創業前から出資を検討しつつアドバイスいただける環境は、本当にありがたかったです。

小正 アドバイスの過程ではいろいろと厳しいフィードバックもしてきたのですが、鈴木さんは私の指摘を的確に把握して、全てしっかりクリアしてから次のミーティングに臨んでくれました。私も多くのディープテックスタートアップ経営者と話をしてきましたが、これほど「コメント吸収力」の高い方をサポートするのは初めてで、驚きました。

みんなが手軽に、レアメタルリサイクルに取り組む未来を

—現在、エマルションフロー装置の開発はどこまで進んでいますか?

鈴木 創業からの1年間は、主に「実液を使った多段エマルションフローの検証」と「装置の大容量化」に取り組んできました。現在、ある程度の成果が出せている状況です。

—「実液を使った多段エマルションフローの検証」とは何なのでしょう?

鈴木 会社の立ち上げ時は、ラボで理想的な試験液を使って実験している状況でした。しかし、実際の精錬やリサイクルで使われる液体(実液)はドロドロしていて、試験液とは全然違います。そのため、実液を流しても装置がうまく動作するか検証する必要があったんです。

さらにこの検証では、複数のエマルションフロー装置を直列につなげて連続処理を行う「多段エマルションフロー」を使用しました。多段にすると生産性や純度は格段に高くなるのですが、送液する際の抵抗なども考慮する必要があるので、難易度も上がります。

とある金属精錬会社と協力して検証を進めた結果、無事に実液を最後まで流して、目標の純度を達成することができました。

—ラボから現場へ、というのは非常に大きな一歩ですね。2つ目の「装置の大容量化」についても教えてください。

鈴木 産業利用にあたっては、装置の容量を大きくしないといけません。1L、10Lと徐々に検討を進め、現在は100L装置の設計・製造を進めているところです。2023年中には1000Lの装置を使った多段エマルションフローを実現して、商業プラントを受注できる状態にしたいと思っています。2024年までに、商業プラントを少なくとも1件受注するのが目標です。

—まずは、どの業界をターゲットにビジネスを展開する予定なのでしょう?

鈴木 最初は、溶媒抽出を活用しているあらゆる業界に私たちの装置をアピールしていきます。現在の主流であるミキサーセトラーをエマルションフロー装置に置き換えていく、というイメージですね。

2つ目のターゲットは、やはりリチウムイオン電池のリサイクル市場です。エマルションフロー技術を使えば、回収したレアメタルを使って再びリチウムイオン電池を製造する「水平リサイクル」を達成できるはずです。そうすれば、レアメタルを地上だけで循環させる「完全循環型社会」も実現可能だと考えています。電池メーカーなどとも連携して、世界中に私たちの技術を広めていきたいですね。

—世界中でエマルションフロー装置が使われるようになれば、レアメタルのリサイクルが身近なものになりそうです。

鈴木 私たちが目指しているのは、まさにそのような社会です。レアメタルって、携帯電話やパソコンなどには必ず使われているんですが、一般的にはあまり重要性が知られていません。私たちの技術によって小型なリサイクル装置が実現すればレアメタルリサイクルが当たり前となって誰もが手軽に携帯電話をリサイクルできる時代が来るかもしれない。そうやって一人一人がレアメタルの価値とリサイクルを意識できる環境をつくり、脱炭素社会を加速させることも、私たちの使命だと考えています。

小正 人類のサステナビリティをテーマとしているのは、リアルテックホールディングスも同じです。地球の未来を守る仲間として、今後もEFTを応援し、ともに活動を続けていきたいと考えています。

地球の未来を変えるため、「土台を固めて一歩一歩着実に」進む

—EFTは、技術ベンチャーの中でも平均年齢が高めだと伺いました。

鈴木 そうですね。今の平均年齢は50くらいです。創業メンバーは60歳近い人も多いですし、かなりシニアな組織だと思いますね。

実は、平均年齢が高いのは僕の戦略なんですよ。僕は、ディープテックスタートアップの立ち上げ期には事業の土台づくりが肝心だと思っています。そして、土台を固めるには経験豊富なシニアを採用するのが確実です。最初にシニアを積極的に採用して、その方々の知見を取り入れて技術や事業をしっかりつくっていく。それによって、会社の成長速度も変わってくると思うんです。

最近は会社の土台も固まってきたので、今後は30~40代くらいの若手も積極的に採用していきたいと考えています。

—会社の土台が整って、成長フェーズに入られたということなのですね。性格的には、どのような方が多いのでしょうか?

鈴木 穏やかで、あまりガツガツしていない人が多いですね。創業メンバーが穏やかな方ばかりだったので、その雰囲気やカルチャーに合った人材を採用していった結果、非常に穏やかな会社になりました。ガツガツしているのは僕だけですね(笑)

仕事に関しては、真面目に着実に取り組まれる方が多い印象です。自分でしっかり理解しながら検証を進めて、着実に技術を進化させていく雰囲気があります。

—なるほど、堅実に働きたい人にはぴったりの会社ですね。

鈴木 そうですね。あと、僕が特に押したいのは当社メンバーの「受容力の高さ」です。

人間って、年をとると他人の意見を受け入れづらくなると思うんですよ。でもうちには、他人の意見をうまく取り入れて形にできるシニアメンバーがたくさんいます。例えば、創業メンバーの長縄は僕より15も年上ですが、僕の言ったことを理解して積極的に取り入れようとしてくれます。

僕は、人を採用する際にはこの「受容力」を一番重視しています。ガツガツとした「積極性」も重要ですが、やっぱり受容力の高い人に入ってきてもらいたいですね。もちろん、両方を備えている方は大歓迎です!!

小正 EFTメンバーの受容力の高さは、僕から見てもずばぬけています。普通のシニア系ディープテックスタートアップだと頭の固い方が多くて、あとから入った若手が苦労する話も聞くのですが、EFTだとその心配はまずないと思います。若い方でも十分になじめると思うので、ぜひ参画していただきたいですね。

—今後は、どの業種の採用を強化していく予定ですか?

鈴木 来年にかけて技術開発を加速していく予定なので、今は技術系の方を多めに採用しています。溶媒抽出のプロセス開発を担当する化学系の人材と、プラント開発を担当する工業系の人材、両方を等しく採用しているところです。

ビジネス側に関しては、今後の海外進出を見据えて、海外事業や海外向けのマーケティングを担当できる人材を求めています。また、将来的なIPOを実現するためのCFO人材なども採用する予定です。

小正 海外市場をアグレッシブに攻めるには、今のEFTにはあまりいない「ガツガツタイプ」の人材も必要だと思います。そういった人材にどうカルチャー・フィットしていただくかが、今後のポイントですね。

—技術系とビジネス系、両方の人材を幅広く採用される予定なのですね。

鈴木 はい、どんどん人を増やしていきたいと思っています。そして、採用にあたって国籍は問いません。すでにうちには、南アフリカ出身の技術者が1人在籍しています。会社に必要な人材であれば、出身は問わず積極的に採用したいですね。

—入社を検討している人に対して、特にアピールしたいことはありますか?

鈴木 EFTには、多くの実績を上げてきた技術者やビジネスマンがたくさん在籍しています。大企業だとかなり上の役職に就いているような方たちですね。そういったすごい方々と一緒に働けるのが、一番のメリットだと思います。実績のある方々の知識や経験をダイレクトに吸収すれば、大企業にいるよりもはるかに早く成長できるはずです。

—最後に、EFTに興味を持った方々にメッセージをお願いします。

鈴木 EFTは「限りあるレアメタル資源を未来につなぐ」という壮大な目的のもと、これからも一歩一歩着実に事業を進めていきます。私たちの歩みは、地球の未来を確実に変えるはずです。そんなやりがいのあるテーマに、あなたも一緒に取り組みませんか?

株式会社エマルションフローテクノロジーズでは現在、技術系・ビジネス系の幅広い職種を募集しています。 ご興味いただいた方はWEBサイトをご覧いただき、お問い合わせください。

https://emulsion-flow.tech/

構成(インタビュー):太田真琴

関連記事