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2023年2月15日

AIが駆動する細胞分析の新技術:ゴーストサイトメトリーが切り拓く革新的な医療・研究の未来ーStartup Interview #009 株式会社シンクサイト

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STARTUP INTERVIEW | #009 シンクサイト | AIが駆動する細胞分析の新技術:ゴーストサイトメトリーが切り拓く革新的な医療・研究の未来

技術の力を、未来の力に──当社が投資支援する“リアルテックベンチャー”の代表や開発者に、解決したい社会課題や研究内容について聞くインタビューシリーズ。今回は医療や生命科学研究にとっての新たなプラットフォームとなる、革新的な細胞の分離分析技術を提供するシンクサイト株式会社の代表取締役社長 勝田和一郎氏とリアルテックファンドの担当グロースマネージャー篠澤裕介・室賀文治に、高速かつ正確に細胞を評価・選別する技術の可能性について聞きました。

<プロフィール>
勝田 和一郎(カツダ ワイチロウ)
シンクサイト株式会社 代表取締役社長
東京大学卒業後、アキュメンバイオファーマにて日本や米国における医薬品・医療機器の事業開発や経営企画を経験。その後、経営コンサルティング企業にてグローバル医薬品・医療機器メーカーへの中長期経営戦略立案やマーケティング戦略立案等に従事し、INSEAD経営大学院にてMBAを修了。2016年に太田禎生(東京大学先端科学技術研究センター准教授)らとともに、シンクサイト株式会社を共同創業。光学、流体、機械学習等の先端技術を融合した新しい細胞分析システムを開発し、革新的な治療や医療診断技術への応用を進めている。
[企業サイト]https://thinkcyte.com/

開発:ゲームチェンジングな技術

――最初に事業の基盤となる技術「ゴーストサイトメトリー」について教えてください。

勝田 ひと言で説明するなら、細胞の画像情報を「画像を見ずに」解析する技術です。

篠澤 補足すると、いわゆる細胞解析において、まさに革新的な技術といえます。細胞を解析する際には、一定時間単位で細胞を観察できる数と、1個の細胞から得られる情報の質が指標となります。従来の解析では、この量と質がトレードオフの関係にありました。つまり一定時間内に多くの細胞を観察しようとすると、得られる情報量に限界がある。逆に情報量を増やすと、一定時間内に観察できる細胞数が限られてしまう。この二律背反を解消する技術がゴーストサイトメトリー(※1)であり、そのカギは、まさに画像を見ずに画像を解析する点にあります。

――とはいえ画像を見なければ、画像解析などできないのでは?

勝田 高速のイメージング計測技術に機械学習(AI)を直結させた点が、このゴーストサイトメトリー技術のユニークな点です。細胞から高速に画像情報を取得するために、情報を圧縮する形で計測しているのですが、その情報処理にAIを活用しているため、必ずしも再構成された画像自体を人が観察する必要はない。すなわち、人が画像を見ることなく、圧縮された細胞の画像情報をそのままAIが解析する、だから速いのです。このAIと高速イメージングに加え、マイクロ流体技術(※2)を組み合わせすることによって実現した技術です。

篠澤 実は私も農学系での研究経験があるだけに、最初に細胞を「見ずに解析する」と聞いたときには、一体何をいっているのだろうと不思議に思いました。ところが説明を聞くと、研究のやり方を根本的に変える、まさにゲームチェンジングな技術だとわかったのです。ただし最初に勝田さんと太田さんから相談を受けた段階では、まだ社名もないような状態でしたね。

勝田 もともと太田から相談を受けて、二人で事業計画を作り始めたのが立ち上げでしたから。それでNEDOから採択を受けた補助金のアドバイザーとしてお世話になったのが、リバネスの丸さんと篠澤さんでした。確かにそのときにはまだ、社名のことなどまったく頭にありませんでした。

※1:ゴーストサイトメトリー 新規の動的イメージング法により、細胞の形態情報を光圧縮信号として計測し、そのデータを改めて「画像化せずに」直接、機械学習で超高速リアルタイム判別する。これにより目的の細胞の選択的な高速分離を実現した。関連する発表論文はこちら
※2:マイクロ流体技術 ガラスなど透明度の高い材料で作られた基板に、ナノメートルからミクロン単位の流路を生成し、そこで流体を操作して観察する技術。

創設:技術を社会に還元する

――その技術が、東京大学や大阪大学などに所属する研究者たちのコラボレーションによって構築された。その点にも従来の枠を超えた可能性を感じます。

勝田 ゴーストサイトメトリーとは、共同創業者の太田を始めとする東京大学や大阪大学の研究者を中心としたグループが開発した技術です。研究関連の人脈については太田の力が大きいです。彼は複合領域に関心を強く持っていて、分野応用的な研究思考を持っていました。もともと研究のスタートは、バイオ系の研究者から引き出したニーズでした。要するに少しでも速く、可能な限り正確に、1個単位で細胞を画像情報をもとに分析・分離したいというのです。

この要望に応えられる技術を開発するため、まず光学イメージング分野を専門とされている大阪大学(当時)の堀崎遼一先生(現在は東京大学 情報理工学系研究科 准教授)とアイデアを作り込み、更に、取得した画像情報を正確かつ高速に処理するには機械学習が欠かせないと考え、機械学習を専門とされている東京大学の佐藤一誠先生(同 情報理工学系研究科 准教授)と出会えたのです。お二人には当社の共同創業者としても関わっていただいていますし、その他にも医学・工学など様々な分野の研究者の方々にご協力いただいて開発することができました。

室賀 太田さん自身は、マイクロ流体分野が研究の出発点だったそうですね。そこからアメリカ留学に出て博士課程では光学物理分野の研究を行った。自身が複合領域を志向する研究者だったから、さまざまな領域の研究者とコラボレーションできたのでしょう。

篠澤 太田さんと話していて強く感じるのは、目的達成への意欲の強さです。目的を達成するため必要な技術であれば、領域などにこだわらずどんどん取り込んでいく。そんな要領で太田さんがいろいろな人材を引っ張ってきたでしょうから、勝田さんは話を合わせるのも大変だったではないですか。

勝田 正直なところ、私は研究者ではありませんし、異分野の先端的な研究内容を組み合わせたゴーストサイトメトリーを理解し、その事業化の方向性を考えていくのは、確かに大変でした。ただ、太田とは大学時代からの友人で、もともと信頼関係がありました。また、私自身も、この技術によって、これまでは不可能だったような、新たな診断や治療を実現させたいという思いを強く持っていました。更に、社会実装を実現するために不可欠な優れた人材に徐々に仲間に加わってもらうことで、研究開発を加速することができました。

――シンクサイト社には研究者が多いと聞きました。個性的なメンバーが多いはずでしょうから、まとめるのに苦労されているのでないでしょうか。

勝田 私自身はバイオ系企業の事業開発や経営企画に携わった後、経営コンサルティングの経験をしており、事業の推進や組織の運営に関するノウハウはある程度持っているつもりだったものの、相手が個性的な研究者集団というのは経験がなく、当初はうまくチームとしてまとまれるか、少し心配していましたが、まったく杞憂でした。とにかくみんなコラボレーションに意欲的なのです。要するに、研究成果を社会に役立てていくためには、さまざまな領域を複合させる必要があるのだと。この価値観を共有してくれる人たち、そして今では研究者だけではなく開発を推進するエンジニアや事業を推進するビジネス人材が、シンクサイトには集まっています。

篠澤 研究成果を世の中に出し、社会に貢献したい。シンクサイトを見ていると、そんな意欲を持つ多様な人材が集う会社だと強く感じます。研究を突き詰めると同時に、研究成果を世の中で活用していく。研究とビジネスを両輪で回し、先端技術の社会実装を進める力がシンクサイトには備わっていると感じます。

推進:技術の社会的価値が認知される

――2020年から大規模な資金調達を行っています。

勝田 当社の技術分野では、当初から特に世界最大の市場であるアメリカでの事業推進が最重要であると認識していました。資金調達に協力いただいた各社には、アメリカを軸としたグローバルマーケットを対象としている点、もとよりゴーストサイトメトリーに対する評価も踏まえて協力いただいたものと考えています。

篠澤 細胞に関わる治療や研究には、ゴーストサイトメトリーが必須の技術であると、そんな認識が広まっているのを感じます。創薬や医療診断での課題解決に必要な基盤技術であり、大手企業との提携が続いているのは、技術力の確かさが評価されているからでしょう。

――2020年7月に日立との共同開発が発表されています。

勝田 日立製作所さんとは、細胞分析・分離システムの共同開発に取り組んでいます。日立さんが築いてきた再生医療のバリューチェーンに、我々の技術を組み込み、再生・細胞医薬品の品質向上や製造コストの低減をめざしています。

室賀 日立クラスの大企業を相手にする場合、提携までこぎつけるのは苦労したのではありませんか。

勝田 信頼関係の構築には時間をかけました。それこそ最初は学会での発表や紹介から始めて、データや実績を積み重ね、そのプロセスを通じて我々の技術やチームに対する信頼を培っていく。そこからですね、物事が動き始めるのは。

――2021年にはシスメックス社との共同開発が発表されています。

勝田 シスメックスさんとも以前から進めていた共同研究の成果を踏まえて、新たに世界に先駆けた新たなAIベースの細胞分析技術の共同開発を本格的に推進する運びとなりました。ゴーストサイトメトリー技術を活用した体外診断領域における細胞分析装置・検査方法の実用化をめざしています。

篠澤 分野融合の技術開発には、多分野の人材が必要です。シンクサイトの場合は、異なる分野の専門家同士がひとつのチームとなり、積極的にコミュニケーションをしながら研究開発を推進しているところも、大手企業から高く評価されている点だと思います。

飛躍:研究成果で世界を良くする

――今後の展開については、どのように考えているのでしょうか。

勝田 まずは研究用途からスタートしますが、中長期的にはゴーストサイトメトリー技術を搭載した医療用途の機器や、ゴーストサイトメトリー技術を利用した創薬や診断分野における共同研究を更に拡大していく計画です。地域的には、まずはアメリカと日本からスタートし、次にヨーロッパや中国、そして更にはその他の国・地域へのグローバルな展開も計画しています。

室賀 ホームページが基本英語でつくられているのは、グローバル志向の現れと理解しています。だからアメリカでも拠点を整備して事業を立ち上げる。治療用途と研究用途で考えれば、研究用が先行しそうですね。公表されている日立やシスメックス以外にも、共同研究を進められていると聞いています。

勝田 そのため2021年頃からアメリカでの現地採用を進め、拠点整備に取り組んできました。製品開発では主だった課題の解決が進んできていますので、今後は技術や製品の認知を広め、活用法を広く知ってもらうための営業やマーケティング活動が重要になってくると考えています。

――グローバル展開を踏まえて、今どんな人材を必要としているのでしょうか。

勝田 専門性を持ちつつ、他の分野にも関心を持てる好奇心旺盛な人は、シンクサイトのカルチャーと相性が良いと思います。例えば、機械学習、バイオロジー、光学系や流体などのハードウェア技術などのうち、いずれかに専門性を持ちつつ、他の分野にも興味関心を持っているような方です。もちろん、これらをすべて兼ね備えている人という意味ではなく、どこかに軸足を持ちながら、他の領域も理解できる人という意味です。チームで進めていくので、コミュニケーション能力も必要です。

篠澤 根本にある志向性として、世の中の役に立ちたいと考える姿勢も欠かせないと思います。あくまでも現在のスタッフを見る限りではありますが、Ph.Dを持っている人が多いのも特徴ですね。

勝田 はい、概ね社員の3分の1程度は博士号を持っています。そして、博士号を持つ研究者だけではなく、会社の規模が拡大するなかで、事業開発、知財、人事、経理財務など様々な分野の専門家が在籍し、活躍しています。ただ篠澤さんがいわれたように、一番に求めたいのは、我々の技術を通じて新たな治療・診断を実現し、世の中に貢献したいという意欲ですね。

室賀 数多くのベンチャーを見てきた経験からいわせてもらうと、極めてワークライフバランスのとれた就業形態だと思います。おそらくは短時間に集中して成果を出すタイプの人が集まっているからですね。

勝田 ゴーストサイトメトリーは今後、研究用途だけではなく、診断や創薬・治療用途にも応用範囲を拡大していく考えです。対象が細胞あれば、幅広く利用できる。これからさらに新しいアイデアと創発を引き起こし、次のイノベーションを担ってくれる人材を歓迎します。


シンクサイト株式会社では現在、各種ポジションを募集しています。

詳しくは以下をご覧ください。

https://hrmos.co/pages/thinkcyte/jobs

構成(インタビュー):竹林篤実

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