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2023年1月31日

風を読めると、世界が変わる。ドローンや船舶、風力発電などあらゆる風のデータに革命を起こす「小型ドップラーライダー」―Startup Interview #008 メトロウェザー株式会社

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STARTUP INTERVIEW | #008 メトロウェザー | 風を読めると、世界が変わる。ドローンや船舶、風力発電などあらゆる風のデータに革命を起こす「小型ドップラーライダー」

当社が投資支援する“リアルテックベンチャー”へのインタビューシリーズ第8弾は、NASAへ協力するほどの技術力で「空のインフラ整備」を担う京都大学発のスタートアップ、メトロウェザー株式会社に迫ります。

目に見えない風を測れるようになるだけで、世界は変わる――。

空や海の航路は一見、自由に見えますが、風の流れに大きく影響を受けています。一般的に、航空機や船舶には「マイクロ波の気象レーダー」が備わっており、雲や風の状態をそれで計測していますが、特に地上付近では山や海上の波などのノイズを拾いやすく、正確性に欠ける難点があります。そのため、安全な航行のためには、気象を感じるベテランの勘が欠かせません。

もし、新しい機器によって目に見えない風の流れをもっと高精度に読み取り、事前予測ができれば、より安全に、より効率よく空を利用できるようになります。

空の航行をより安全に行えれば、ドローンやエアタクシーなど、未来のモビリティや移送手段に対する安心感と信用も、格段に高まるのです。

それだけではなく、風を読んだエネルギー効率の高い船舶運航や、洋上風力発電所の計画・検討、ゲリラ豪雨を事前予測する都市防災への応用など、無限の可能性を秘めています。まさに空のインフラ整備です。

それを可能にするのが、世界を変えるイノベーションの詰まった「小型ドップラーライダー」です。ドップラーライダーは、大気中にレーザー光を照射し、エアロゾルの動きを捉えることで気象の変化を正確に計測する装置です。メトロウェザー社のドップラーライダーは従来の装置より圧倒的に「小型」であることが大きな特長となっています。装置が小さくなればなるほど、設置できる場所や搭載できる機体の可能性が広がるからです。

小型ドップラーライダーはどんな未来を切り拓いてくれるのか。本記事ではメトロウェザー代表取締役 CEO 古本淳一(ふるもと・じゅんいち)氏と取締役 ファウンダー 東邦昭(ひがし・くにあき)氏のお二方を迎え、リアルテックファンドのグロース・マネージャー木下太郎(きのした・たろう)を交えてインタビューを行いました。

投資を受けたメトロウェザーの視点と私たち投資ファンドの視点、それぞれから、メトロウェザーの事業の魅力と将来性、採用候補者に求める人物像などを語ってもらいます。

<プロフィール>
古本 淳一(ふるもと・じゅんいち)代表取締役CEO
2019年まで京都大学生存圏研究所で助教として研究・教育活動を行いながら2015年にメトロウェザー創業。計測・制御・通信などの知識を活用した新しいレーダー観測技術の開発の他、社会的課題解決に直結させる研究に力を入れ、最先端計測技術・デバイス開発を駆使した高性能コヒーレント・ドップラー・ライダーを開発。研究成果の社会実装・社会貢献に向けた取り組みも数多く行う。
京都大学博士(情報学)・技術士。

東 邦昭(ひがし・くにあき)取締役
2009年に京都大学のポスドクに着任後、大気レーダーを用いた乱気流検出・予測技術の開発・高分解能気象予測シミュレーションの開発を行う。民間気象予報会社において2年間の環境アセスメントの実務経験も持つ。2014年にポスドクを辞めた後、1年間の起業準備期間を経て、2015年に古本とともに京都大学発スタートアップとしてメトロウェザーを設立。取締役。
神戸大学博士(理学)・気象予報士。
【企業サイト】 https://www.metroweather.jp/

無いなら作る。逆転の発想で小型化に成功

――共同創業者としてお2人がメトロウェザーを創業したきっかけを教えてください。

古本 もともとは「大学の研究で必要な装置を作っていた」のがきっかけです。

 私たちは京都大学で「風を測る」大気の研究を行っていました。ある日、私たちの研究を知った鉄道会社から、「電車が風の影響で止まってしまうので原因を調べてほしい」とご依頼をいただいたんです。それまで作っていた汎用機では、数百m(メートル)の範囲を測定するのが限界で、それでは先方が希望する性能に及びませんでした。どうしたものか…と思っていたのですが…。

古本 「無いなら、自分たちが作るしかない!」 という話になり(笑)、それが創業へとつながりました。

 2015年にメトロウェザーを設立しましたが、顧客から期待される要件を満たす「ちゃんと動く製品」が完成したのは2020年です。そこまで、5年の歳月を要しました。

古本 知人からも「5年は長いね」と言われましたね。リアルテックファンドさんが、私たちに最初に投資してくれたのは2018年です。完成品ができる前から私たちを信じてくれたのは、ありがたかったですね。

――リアルテックファンドは、メトロウェザーのどんな点を評価して投資したのでしょうか。

木下 2018年時点では確かにまだコアプロダクトは未完成でした。それでも投資判断に至ったのは、「そのプロダクトができることによって訪れる世界観にワクワクした」のが1番の理由です。

風を測る必要がある場所では、旧来型のレーダーや風車型の計測器など、レガシーで原始的な手法がいまだに採用されています。だからこそ、メトロウェザーの技術がワールド・スタンダードになれば、世界が変わる。そう感じられました。

 その頃すでに、当社のコアプロダクトとなるドップラーライダーの方向性は見えていました。しかし当初は、短時間で局地的に激しく降る「ゲリラ豪雨」の予測ができることを売りにしようと考えていたんです。

天気予報のニュースで、雨雲の存在が赤く示された雨雲レーダーの図を見たことがあると思いますが、雨雲を観測する気象レーダーでは、ゲリラ豪雨を直前にしか予測できず、大雨の危険を人々に知らせる警告が間に合いません。もっと前から予測するには、雨雲ではなく風を計測して「ゲリラ豪雨の卵」を見つける必要があるのですが……。

古本 それと並行して、木下さんと議論を深めるなかで、「急成長しているドローンの市場を狙うビジネスができるのではないか」という方針が固まっていったんです。

木下 ゲリラ豪雨の予測も、大きな社会課題の解決として大事なテーマです。しかし、キャッシュ化までには相当の時間がかかることが予想できました。そこで「まずはドローンや洋上風力関連の課題解決に向けた製品を作りましょう」とご提案しました。いろいろな分野に使える技術だからこそ、「どういう順番で社会実装していくか」が大事になると考えました。

――メトロウェザーが誇る「世界を変える」技術とは、どんな内容なのでしょうか?

古本 当社の主力製品はドップラーライダー「Wind Guardian(ワイルド・ガーディアン)」です。一般的には数m〜10m以上の大きさがある巨大な装置を、わずか「65cm四方」の大きさで実現しました。このコンパクトさが最大の特徴であり、「小型化できた理由」に当社の独自技術が詰まっています。

「ドップラー」とは、救急車が通過する前と後でサイレン音が変わる現象でおなじみの「ドップラー効果」のことです。ライダー(LiDAR:Light Detection And Ranging)は「光検知と測距」の略で、「ドップラーライダー」は測定装置を指します。当社製品の場合は、赤外線レーザー光を用いて、微粒子(エアロゾル)からの散乱光を受信します。ドップラー効果による信号周波数の偏移を観測することで、風の移動速度や向きを計測します。

ドップラーライダーを作れる会社は、実は当社のほかにも日本に5社ほど存在します。その中で当社の製品は、他社製品と同等の性能を持ちつつ、サイズや機能、価格のすべてにおいて競争優位性があります。

特に、船舶やドローン、ビルの上など、風を測る必要のある場所は設置スペースが限られていて、小型であることは大きなメリットです。しかもドップラーライダーは一般的には何億円もする装置ですが、当社の製品はそれより一桁少ない価格にコストダウンすることに成功しました。

私たちの装置のキモは、ノイズだらけの情報の中から必要な情報だけを取り出す「信号処理技術」です。これこそが当社のコア技術であり、30年に渡って京都大学が大型レーダー研究で培ってきた技術の結晶だと言えます。

京都大学で私たちは、甲子園球場の大きさと同じぐらいの直径約100mの大型レーダーを使って、約500km上空を測るという研究を行っていました。国際宇宙ステーションが地球の周りを周回する軌道が、上空約250kmですので、それよりも2倍も先の空を計測するということになります。それぐらいの高度になると、大気中にほとんど空気がないため光を反射する粒子もほぼありません。宇宙から飛来するノイズだらけの僅かな信号を頼りに、正確な情報を得る技術が必要になるのです。このような研究を通じて、「砂漠の中から一粒の砂金を取り出すような」繊細な技術が培われました。

このソフトウェア側の信号処理技術を応用したのが、私たちのドップラーライダー「ワイルド・ガーディアン」です。装置が小さいほどレーザー出力は小さくなり、正確な計測は難しくなります。しかし私たちの製品は、大手他社製品の10分の1ほどしかない弱いレーザー出力でも、正確な計測結果を得られます。高性能を維持しながらハードウェアを小型化できたのは、世界でも私たちだけです。

本場アメリカ市場で認められる「空のインフラ」を目指す

――今後はどのような展望を描いていますか?

古本 一言でいえば、「世界中の空を見える化することで、風のデータをすべて把握する会社」になりたいと考えています。「空のインフラ整備」を担う事業者になることが最終目標です。

数年後までには、海外の売上を日本以上にすることを視野に入れています。私たちの製品は、市場規模的にも、製品の価値としても、世界展開できるポテンシャルを持っています。

しばらくの間、当社は売上が伸びず、売り先も定まらず、五里霧中の状態が続きました。しかし昨年2021年にやっとコアプロダクトのドップラーライダーが完成し、今年2022年にはシリーズAラウンドで、リアルテックファンドなどから総額約7億円を資金調達できました。装置の完成後は、実際の機器を持って営業に行けるようになったことから、確実な売上も立つようになりました。

装置の現物を見ると、自動車会社や風力発電会社、通信会社、船舶会社など、多くの企業が興味を示してくれます。開発時点では自分たちの機器に自動車産業からのニーズがあるとは想像もしていませんでしたが、空気抵抗を減らして燃費を向上するための研究に活用を考えているようです。またある船舶会社では、自社の船に標準で当社のドップラーライダーを備え付けることを検討してくれています。

そうした産業の反応を見て、現在、TAM(獲得可能性のある最大市場規模)としてアメリカ市場を想定しています。ドップラーライダーに関するアメリカの市場は日本より数年先に進んでおり、肌感覚で2〜3桁も大きな規模があると感じます。

とくに航空機や宇宙関連の産業は規制産業で、アメリカの決めたルールがグローバルスタンダードとなり、日本もそれに追従します。それならば本場のアメリカで先に展開して、あとから日本市場に逆輸入したほうが効率的です。競争が激しい市場ですが、すでにNASA(アメリカ航空宇宙局)への営業を始めており、「アメリカ市場で認められたい」と強く思っています。

 リスクはあっても、挑戦しない理由はありません。当社の技術はすでにアメリカからも注目と関心を受けており、アメリカ国防総省から予算が付いたり、先日はアメリカ大使の方に当社を訪問していただいたりしたところです。

――採用候補者はどんな方が適任だと思いますか?

 受け身ではなく、仕事において「攻めの姿勢を持てる方」に来てほしいと思います。「変わった人」「普通じゃない人」が当社のカルチャーには合いますし、それがメトロウェザーらしさだと思います。

古本 どんどん変化するのがスタートアップです。私も周囲も環境もどんどん変化していく中で、変化そのものを楽しいと思える方が当社には向いています。「新しいことをやりたい」意志が強い方にぜひ来ていただけたら嬉しいですね。ぜひ私たちとともに、「空のインフラ」を作っていきましょう!


メトロウェザー株式会社では現在、各種メンバーを募集しています。詳しくは以下をご覧ください。 https://www.metroweather.jp/recruit

構成(インタビュー):山岸裕一

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