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2021年3月1日

空調業界を牽引するダイキン工業がリアルテックファンドに参画。110億円の投資枠を設定しベンチャー投資を積極的に行うダイキンがいまリアルテックホールディングスと組んだその理由とは?

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【画像】オンライン対談の様子

 150カ国以上へ事業展開を行う、空調売上グローバルNo.1のダイキン工業株式会社(以下、ダイキン)。ダイキンがグローバルNo.1の次に目指すのは、空調機器を売るメーカーから空気・空間そのものを提供するメーカーへのシフトチェンジだ。「戦略よりも実行」「人を基軸におく経営」等独自の価値観を持つ企業に、東京大学との産学連携に100億円の拠出、ベンチャーへの投資枠として110億円を設定する等ダイキンの戦略は大きな注目を集めている。  そのような中で実現したダイキンによるリアルテックファンドへの出資。グローバルNo.1、空調の次の未来を見据えるダイキンの次なる一手とは

■ダイキン工業株式会社

テクノロジー・イノベーションセンター CVC室

  • 三谷太郎(テクノロジー・イノベーションセンター 副センター長 兼 CVC室長)
  • 安井俊介
  • 岡田光正
  • 木下悠

■リアルテックファンド

  • グロースマネージャー 木下 太郎(以下、木下)
  • グロースマネージャー 熊本 大樹(以下、熊本)

『オープンイノベーションによる連携と人材育成が出資の決定打に』

木下:これまで産学連携等オープンイノベーションに積極的に取り組まれている印象です。改めて、その取り組みをお聞かせいただけますか? ​

 まず大前提として、我々メーカーはコア技術が生命線になります。そこで、自社のコア技術を強化することと周辺領域への拡大を目的に、大学との産学連携や、近年はベンチャーとのオープンイノベーションに力を入れてきました。実際の数字で言いますと、東京大学に約100億円、大阪大学に約56億円を拠出する包括連携を行っています。中でも東大発ベンチャーとは約120社以上と面談を行っており、こちらはダイキンの将来的な出資候補先として認識しています。しかしながら、我々の事業に直結するようなベンチャーはまだまだ探し切れていないという感覚がありました。そして、我々がそのようなベンチャーを見つけ出すための座組みを持っていないこともまた課題でした。 ​

木下:空調も数多くの技術から成り立っており、有望な技術全てにあたることができていないとの課題感があったのですね。その中でリアルテックファンドに参画されたのはなぜでしょうか。 ​

 今回参画を決断した理由は二つあります。まず、リアルテックファンドさんはベンチャー発掘の「量」だけでなく「質」も担保している独自のソーシングシステムを持っています。そんなリアルテックファンドさんと連携すれば、我々ではカバーしきれない潜在的な可能性を秘めたベンチャーにも手が届くようになると考えました。これがファンド参画の一つ目の理由です。
 二つ目の理由としては社内の人材育成への期待が挙げられます。ダイキンには投資を行った後にベンチャーを育て協業を促進する人材が不足しており、社内の人材育成にも力を入れていきたいという思いが以前からありました。リアルテックファンドさんには出向受け入れ体制があり、人材育成にも積極的に力を入れていらっしゃったため、我々の人材育成に対するニーズを満たすリアルテックファンドさんへの出資を決めました。以上、ベンチャー発掘のための連携、そして社内の人材育成の二点がファンド参画の決め手となりました。

2.出向者への人材育成の流れ(一例) | step1 リアルテックの一員になる | step2 包括的支援などの実務を経験する | step3 GMとして独自の世界を切り拓く

木下:これから仲間として一緒に事業を協創していくことになりますが、リアルテックファンドに特に期待されるのはどんな点でしょうか? ​

 単純に投資してリターンを得るだけの関係性を超えて、実際の価値創造に向けて我々と一緒に走って頂けることを何よりも期待しています。ダイキン側が個別のベンチャーにあたっていくだけでは点にしかならないので、この点と点を繋げて線にする連携の座組みを作りたいです。未来にどういったビジネスを創っていけるのかというところまで議論を重ねていくことができれば大変嬉しいです。

『業界No.1となった今、我々は空調業界に新たな基軸を示していかねばならない』

熊本:先ほど自社でもこれまでに120社以上のベンチャー企業との面談を行ってきたと仰っていましたが、積極的にベンチャー投資を行う理由を教えていただけますか? ​

 まず、90年代のダイキンは空調業界で2、3番手のメーカーでしたが、その後事業展開のグローバル化を推し進めた結果、2010年には世界でNO.1の空調機器メーカーになりました。2、3番手の頃は明確なNo.1という目標を追いかけていれば良かったのですが、NO.1になったことで我々自身がリーダーとして新しい空調市場を作っていく立場に変化しました。業界のリーダーとして責任ある立場として「これまで以上にSDGsをはじめとする社会課題の解決を目指した事業展開をすることで業界全体の発展に貢献すべきではないか」という意識の変化が生まれ始めました。 ​

 しかし、自社の技術だけでは、その社会課題に対してクリティカルにヒットする事業を展開することが非常に困難でした。今後は単独の空調機器を売るメーカーから、健康快適等を軸としたより良い空気空間を提供する会社へ転換しなければならない。しかしながら、空調機器のポテンシャルを自社だけで引き出すことは難しく、「健康的な空気・空間」のものさしをどうやって定めていくのか、これもまた自社だけで決められるものではありませんでした。 ​

 なので、まずこれらの課題を解消するための手段としてオープンイノベーションによる連携が必須だと考えました。その一つの形が大学との産学連携やベンチャーへの投資でした。東京大学との事例では、まず長期的な目線でどのような社会を作っていくか模索する必要があったので、ビジョンを一緒に作るところからスタートしています。 熊本:ビジョン作りから始めたという点は大変興味深いですね。ディープテックベンチャーとの連携に期待していることは何でしょうか? ​

 コアな技術を持つベンチャーを見ていくと、開発に成功してから事業化するまで息の長い話が多く、真に世の中に価値を還元するというレベルまで成果を出していくことが困難であるというのが現状です。なので、コアな技術を持つディープテックベンチャーに対しては、技術の強化ももちろんですが、やはりビジョン・ストーリーの協創と、社会への価値の還元を最も期待しています。まずはディープテック領域のベンチャーとの具体的な事業化の成果を作りたいと思っています。我々は実際に成果を出すところまできっちりやり切りたいです。

 また、新型コロナウィルス感染症の影響で人々の生活様式が大きく変わりつつある今、空間に対するニーズも変化していっているのではないかと感じています。空調業界に対して新たな基軸を示す必要がある中で、ベンチャーとの連携はそこに一石投じるような意味合いも持たせています。空調業界トップのメーカーとして優れた技術を持つベンチャーを全力で応援したいですし、何よりも社会にその価値を届けたいと思っています。

『空調機器を通じて多様な人々に豊かな空間環境を提供したい』

木下:ダイキン様はこれまで空調機器業界を引っ張ってこられましたが、今後はどのような企業としてありたいか、その展望などはございますか? ​  

 「空調」と「冷媒」のどちらかを手掛けている事業会社さんはたくさんいらっしゃいますが、実はその両方を手掛けているメーカーは世界でダイキンだけです。創業時、ダイキンは潜水艦向けのエアコンの開発生産をしていました。当時は戦時中でしたので、軍事用ニーズに応えるために冷媒用フロンの開発を行っていたのです。それが現在の「空調」と「冷媒」の両方を事業として手がけることに結び付いています。しかし我々は、「空調」と「冷媒」の両方を手がける空調機器メーカーから、次は空気空間自体の提供を考えていくべきフェーズに来ていると思っています。業界No.1となったとはいえ、我々はまだ世界中の全ての方々へ空調機器を届けられているわけではありませんし、ビジョンの事業への落としこみもまだまだ不十分です。今後も空調機器の需要が伸び続けることが予想されますが、その中でアフォーダブルかつ資源や材料にもこだわったサスティナブルな目線での空調機器の開発を進めていく必要があると思っています。

世界の人々と森をはぐくんでいきます | 少ないエネルギーで快適な環境をつくります | 省エネエアコンで地球温暖化を抑えます | 空気で人の健康を守ります | 誰もがいきいきと働ける環境をつくります
(出展元:ダイキン工業 サステナビリティレポート2020)

 また、多様な人々にとって豊かな空間環境とは何なのかを問い直し、そのような環境を提供することを目指しています。  世界中の人々がより健康に、より生き生きと暮らせる豊かな空間を実現する。リアルテックファンドさんとの連携がこのダイキンの未来への取り組みを加速させる追い風となってくれるのではないかと期待しています。ダイキンが社会にとって本質的に価値ある事業を行っているということを、これからの世界を作っていく若い人たちにも伝えられるような実績を共に作っていければと思っています。リアルテックファンドさんは技術の社会実装で、我々は空気で答えを出す。共に成長しながらそんな取り組みができれば嬉しいです。

 自社ではベンチャーへの個別出資ができないのでLPとしてファンドに出資する、そのような見方がありますが、ダイキン様の事例は全く違います。東京大学や大阪大学との産学連携し、ベンチャー投資を行う体制を築いていながら、さらにリアルテックへも出資する。その真意は人作りにあるといいます。点ではなく線の取り組みにするためには、人作りが必要である、これは社会実装まで時間のかかるリアルテック領域ではより重要となる考えです。

 大手企業にはヒト・モノ・カネが全て備わっており、働く方々のスキルも非常に高いものがあります。豊富な知見をもった出向者に来て頂くことで私達も学び成長し、リアルテックベンチャー、このエコシステムをさらに拡大・発展させることができます。この輪に加わり、技術の社会実装に本気で取り組む方をお待ちしております!

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