世の中の役に立つロボットで「ワクワク」を伝えたい - Startup Interview #001 人機一体



技術の力を、未来の力に──当社が投資支援する“リアルテックベンチャー”の代表や開発者に、解決したい社会課題や研究内容について聞くインタビューシリーズ。記念すべき第一弾は、ロボット工学の力によって「あまねく世界からフィジカルな苦役を無用とする」ことをミッションとする株式会社人機一体の代表・金岡博士と、リアルテックファンドの担当グロースマネージャー室賀文治に、なぜロボットで社会解決なのか、これまでのロボット開発とどう違うのかなどについて話を伺いました。

​<プロフィール>


金岡博士(かなおかはかせ)

株式会社人機一体 代表取締役 兼

立命館大学 総合科学技術研究機構 ロボティクス研究センター 客員教授


1971年大阪生まれ。ロボット制御工学博士、発明家、起業家。専門は、パワー増幅ロボット、マスタスレーブシステム、歩行ロボット、飛行ロボットなど。マンマシンシナジーエフェクタ(人間機械相乗効果器)という概念を独自に提唱し、その実装技術を研究・蓄積。2015 年に株式会社人機一体を立ち上げ、ビジネスとしての「人型重機」の社会実装に挑む。


【企業サイト】 https://www.jinki.jp/


※以下敬称略



研究室とベンチャーとでは、スタンスと心構えが全く違う


ーー人機一体とリアルテックファンドが最初に出会ったきっかけは、何だったのでしょうか?


室賀 僕たちが初めて会ったのは、確か2015年の頭ぐらいでしたね。


金岡 時期は覚えていませんが、シーンははっきりと覚えています。テックプランター(※1)の懇親会で、丸さん(※2)に「よろしく」って紹介されて、何がよろしくなんだか分からないまま挨拶しました(笑)

​​※1 リアルテックファンドの創設企業の一社であるリバネスが運営する起業プラットフォーム

※2 丸幸弘。リバネスの代表取締役CEO。リアルテックホールディングス代表取締役も務める。

室賀 我々がリアルテックファンドを立ち上げたのが2015年4月なので、その前から実は博士とお会いしているのですね。もう7年ですか。


金岡 時間がかかっちゃってすみません。


室賀 いえいえ。時間がかかるのは承知の上ですから。でもこんなカッコいいロボットができて感慨無量です。最初の頃は、“ホント作れるのかな?”って正直思っていたのですが、昨年ですか、これを初めて見た時に、「想像の100倍すごいわ、博士!」って思わず叫んじゃいました。


取材場所の日本未来科学館に展示された「零式人機 ver.1.2」は、現在日本信号株式会社、西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)と開発を進める高所作業用ロボットの試作機だ。操縦者は、地上のコックピットから遠隔操作によりロボットの腕や手、頭部を動かすことができ、従来の人力による高所作業からの苦役解消を目指す。


金岡 お会いした当時は、私自身がビジネスのことを全くわかっていませんでしたので、自分のやりたいことをうまく説明できず、多分皆さん理解不能だったと思います。その中で丸さんだけが人機一体の可能性を信じてくれて、さらにその熱をそのまま室賀さんに引き継いでくれました。リアルテックファンド全体でサポートしてもらえたのは、我々にとって非常に大きかったですね。



左:株式会社人機一体 代表取締役 金岡博士 / 右:リアルテックファンド グロースマネージャー 室賀文治



室賀 丸と初めて会ったのは、2014年の「第2回テックプラングランプリ(※3)」の時ですか?

​※3 テックプランター内のハードウェア対象のビジネスコンテスト。

金岡 はい、まだ私が立命館大学で研究していたときです。日本テレビの「リアルロボットバトル日本一決定戦」という番組に出ることになったのですが、ロボットの開発費が全然足りなかったので、そのお金を何とかしようと参加したのが「テックプラングランプリ」でした。その時は事業化などは考えてもいなかったのですが、審査員の方々の話をいろいろ聞いているうちに、「我々の技術で社会を変えたいなら、ベンチャーを設立するしかない」と思いました。またそのとき同時に「ファンドの助けが必要だ」とも考えたので、丸さんは本当にうまいタイミングというか、まるで演出されたドラマのように颯爽と登場してくれた感じです。


ーーやはり大学の研究室のみの力で、技術を社会実装まで持っていくのは難しいでしょうか?


金岡 大学の研究室も、研究費を運用して研究成果を出さなければいけないという点では企業経営に似ています。しかし実際に会社を経営するのと研究では、スタンスと心構えが全く違いますね。


 投資をしていただいた場合、投資額と同じ価値を生み出せばいいわけではありません。それこそ10倍、100倍、場合によっては1,000倍にも拡大していかないといけないわけです。そのシナリオをきちんデザインして話せるようにならないといけないですし、当然実行もしないといけない。起業とはこんなにもしんどいのかと思いました(笑)。



実は、ロボットを作っているようで、「場」を作っている


ーー博士はご自身が研究されてきたロボット制御システムを社会実装するために、「人機プラットフォーム(※4)」というビジネスモデルを構築されました。非常にユニークですが、これはどういう経緯で思いついたのでしょうか?

​※4 先端ロボット工学技術を中心とした人機社の知的財産を活用しながら、分野横断的なパートナー企業と共に、土木・建築、保守・点検、工事・作業、災害対応など、現時点で「自動化」されていない現場作業を「機械化」することにより、課題解決を目指すサブスクリプションサービス。同社は現在、社会課題を解決する革新的ロボットビジネスに共に取り組むパートナー企業(人機プラットフォーマ)を募集している。

金岡 簡単に言ってしまうと“技術だけでは厳しい”と思ったからです。というのも「ロボット技術は近い将来、人間社会で実用化される」と言われ続けながら、現状では、産業用ロボットを超える市場は出てきていません。東日本大震災や、それに伴う福島第一原発事故といった、まさにロボットの活躍が期待された場面でも、結局あまり役に立たなかった。それは、有用な技術が存在しないからではなく、溜まった技術がどこにも出られないまま、風船のように膨らみ続けた状態だったからです。それならば、その風船に穴を開けることが必要だと考えました。


ーーその穴を開ける手段が、人機プラットフォームということですね。


金岡 はい、人機プラットフォームでは“ストーリー”を作ろうと考えています。「人が操作するロボットを使って極限環境、苦役の現場で作業ができる」という物語を社会に提示し、現実に可能だとわかってもらう、すなわちコンセンサスが得られれば、大きなダムに開いた「アリの一穴」のように技術が爆発的に飛び出てくるはずです。そのきっかけを我々が創りたい。そして、その技術を活用し、さらなる新しい技術やビジネス、そして夢を乗せていけるような場を作っていきたい。それが「人機プラットフォーム」です。ロボットはそのための求心力だと考えています。我々はロボットを作りながら、実は「場」を作っているのです。


ーーなるほど、深い考えですね。そうした考え方は、研究を始めた頃からお持ちでしたか?


金岡 いえ、大学の研究室の頃は、「すごい技術があるんですよ。この技術、誰か買ってくれませんか」というレベルでした。でも起業したことで、多くの仲間を巻き込んで、ビジネス化することの力に気づきました。本当に社会で新しい何かを実現しようと思ったら、自分たちの技術の「価値」を指数関数的に大きくする(スケールする)必要があります。つまり新しい「製品」を作るだけでなく、新しい「産業」を作ることが、本当の社会実装なのだと気づいたのです。


室賀 仲間を巻き込む……現実に人機一体には、2015年当時から比べればケタ違いの数の仲間が集まっていますから、今後大いに期待できますね。しかし、研究者というのは良くも悪くも独善的な生き物だと思います。“自分はきっかけを作ればいいんだ”という、ある意味で利他的な発想への転換はスムーズにいきましたか?


金岡 結構スムーズでしたね。その理由は二つあって、一つは研究者としては「自分は一流にはなれない」と自覚していたからです。世の中には超一流のすごい先生がいっぱいいます。そういう人たちを見ていると、技術を極めるスペシャリストとしては、勝ち目がないなと思いました。


室賀 システム全体を仕上げるゼネラリストに向いていると思ったのですね。


金岡 はい。もう一つは東日本大震災です。東北の惨状を見て、「のんきに研究だけをやっている場合じゃない」と強く感じました。「世の中の役に立つロボットを早く出さなければいけない。でも誰もやってくれない。じゃあ自分がやるしかない」と思ったのです。ベンチャーを立ち上げたのもそのためです。今思えば、研究者のキャリアは、ロボットベンチャー企業を作るための準備期間だったのかもしれません。



人の役に立つ能力を、いかにロボットで拡張するか?


ーー “世の中の役に立つロボット”というのは重要なキーワードと感じます。産業ロボットはそれなりに進化していますが、社会課題を解決するためのロボットは、まだまだ本格的に登場してはいません。


金岡 「世の中の役に立つ」って、すごくワクワクしませんか? 自分の能力を十分に活用することで、誰かの役に立てるかもしれない。その思いが“ワクワクの源泉”なのだと思います。だからこそ私たちが開発するロボットも、「人の役に立つ」能力をいかに拡張していくかがポイントになると考えています。ロボットが実際に人の役に立つことを見てもらえれば、多くの人にもワクワクを感じてもらえるはずです。


室賀 現在、暮らしの中に溶け込んでいる技術も、もとを辿れば全てそういうワクワクがあったのでしょうね。


金岡 ええ。自動車や飛行機は人々の「移動する力」を拡張しました。電話やインターネットは人間のコミュニケーション能力を、コンピュータは知的な情報処理能力を拡張しています。一方で、人間の「身体能力」については、それを拡張するデバイスがまだ世の中に十分に存在しません。単に速く移動するだけなら自動車がありますが、人間なら簡単にできる「階段を登る」「障害物を乗り越える」「狭いところに潜り込む」といった動きを、汎用性をもって拡張してくれる機械はまだ存在しないのです。


ーー将来的に存在しうるとすれば、それこそがロボットなわけですね。


金岡 そのとおりです。プログラムであらかじめ決められた通りに動くのではなく、自分の身体と直結したロボットを操作することで、人間の肉体では不可能な動作をしてくれたら、非常にワクワクしますよね。そしてその力を使うことで、たくさんの人の役に立つことができたら、きっと大きな喜びを得られるはずです。


室賀 聞いているだけでワクワクしてきます。


金岡 だからこそ、私はロボットの「ワクワク」を伝えることが自分の仕事だと思っています。投資家の方に言葉や資料でプレゼンすることも大事ですが、我々のロボット技術を実際に体験してワクワクを感じてもらえれば、きっとうまくいくだろうと考えています。


ーー博士が描く理想の未来まで、あとどれくらいのところに来ていますか?


金岡 2005年の「愛知万博(愛・地球博)(※5)」では、ロボットが可能にする「来たるべき未来」のイメージをお見せました。今から3年後、愛知万博から20年の2025年に開催される「大阪万博」では、「ついに現実になった未来」をお見せしたいと思っています。17年前に構想した未来は、もうすでに現実のものとなっています。それを実際のロボットを通じて来場者に見てもらう構想です。

​※5 “自然の叡智”をテーマに121カ国4国際機関が参加。金岡博士は立命館大学ロボティクス学科金岡研究室として、腕・指の力を増幅する試作ロボット「パワーエフェクタ」「パワーフィンガー」を出展した。

ーー人機一体では現在も仲間を募集していると思いますが、どんな人に仲間に加わってほしいと思いますか?


金岡 私が立命館大学ロボティクス学科にいた時のことですが、入学する学生はみんなロボットが好きです。「ガンダムを作る!」といった夢を抱いている学生もいます。でも、卒業する時にはそういう夢を言わなくなって、多くの学生が電機メーカーや自動車メーカーに就職していきます。それは「そんなに簡単にガンダムは作れない」という現実を知ってしまうからです。しかし、あきらめずに作り続ければ、実際に人に役立つロボットを生み出せるということを、私は実践してきたつもりです。ロボット分野には、まだまだ手つかずのフロンティアが残っています。ロボットにかける夢を本気で実現したいと思う人に、ぜひ当社の門を叩いてほしいと思います。


ーーこれからの人機一体の、さらなる成長に期待しています。本日はありがとうございました。


金岡 こちらこそ、ありがとうございました。



 


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