世界最大級のタンパク源「豚」を循環型にアップデートせよ。AIとIoTとICTで食料危機に挑む - Startup Interview #002 Eco-Pork



当社が投資支援する、“リアルテックベンチャー”へのインタビューシリーズ第2弾は、「養豚」のDX化に取り組む株式会社Eco-Porkに迫ります。 豚は人間にとって、世界最大級のタンパク源です。生肉だけで40兆円市場とコメや麦よりも市場規模が大きく、年間15億頭が生まれ、その餌として必要とされる穀物の量は、世界全体のコメの年間生産量を凌駕します。 それゆえに、豚の畜産は、世界の人口増加に伴う食料不足や資源価格高騰などの問題を大きく左右する産業であり、解決すべき大きな課題が存在します。 2017年創業のスタートアップ、Eco-Porkが豚に特化した事業を展開している理由もここにあります。


Eco-Porkは、AIやIoTなどのテクノロジーを活用することで、養豚場の完全自動化を目指すスタートアップです。さらに将来は、飼料や糞尿処理まで含めた循環システムの構築も視野に入れています。まさにリアルテック領域に挑む新進気鋭のベンチャーです。 今回は、Eco-Pork代表取締役の神林隆(かんばやし・たかし)氏とリアルテックファンドのグロース・マネージャー山家創(やんべ・そう)に、投資を受けたベンチャー側の視点と投資ファンドから見た視点で、Eco-Porkの事業の魅力と展望、人材採用で求める人物像などを語ってもらいました。

<プロフィール>

神林 隆(かんばやし・たかし)

株式会社Eco-Pork 代表取締役

ミシガン大学経営学修士課程を修了後、外資系コンサルティングファームにてテレコム領域の経営戦略・新規ビジネスモデル企画などに従事。その後、統計解析・人工知能を活用した新規ソリューション開発を責任者として主導。テクノロジーを活用し、養豚を出発点とした持続可能な循環型食肉文化を構築するため、2017年11月29日にEco-Porkを創業。

【企業サイト】https://www.eco-pork.com/


以下敬称略



運命の分かれ目は「いい肉の日」


――神林代表がEco-Porkを創業したきっかけを教えてください。


神林 ルーツは学生時代にあります。大学ではAIを研究しながら、NPO(非営利団体)やNGO(非政府組織)に所属し、ユーグレナ創業者の出雲氏らと共に「国際交流を通じて世界の食料問題や環境問題を解決する」をテーマに活動していました。現在に通じる課題感は、その頃より抱いていたものです。 そのあとは20年近くを会社員として過ごし、ミシガン大学でMBA(経営学修士)を取得したりしながら、起業する直前まではデロイト トーマツグループのコンサルティング会社に勤めていました。 「退職率を下げる」「一括採用の人数を増やす」といった、人事の生産性を「ピープルAI」の力で高める、いわゆるHRテックと呼ばれる領域でコンサルとソリューションの仕事をしていたんです。


――養豚とはまったく遠い世界ですね。


神林 ある日オフィスで、Eco-Pork共同創業者の荒深慎介と深夜になんとなくおしゃべりをしていたときでした。 「技術者はみんな最適化社会(機械が人に合わせる社会)を作ろうとしているけれど、最適化社会が実現したら、その次にAIを何に使うのかは、誰も考えていないよね」という話題になったのです。 「最適化社会が現実化して、みんなが暇になったとしても、人間の生きる楽しみ自体が失われてしまったら意味がない」 「『ワインと肉のマリアージュ』のような、文化的価値にもAIを活かせるようになるといい」 「AIの研究者も目先の儲け話だけではなく、その先の本質的な人の幸せのために技術力を使いたいはずだ」 そんなとめどない話をしているうちに、ふとカレンダーに目を向けると、その日が平成29年11月29日(ニク、いい肉)だったんです。「これは運命だな」と思い、その日のうちにEco-Porkの法人登記を済ませ、翌年に退職しました。


――ドラマチックな話です!


神林 はい(笑)。起業に至ったのには、もう1つの動機があります。その頃、ちょうど子どもが生まれて、「自分たちの次の世代にも、お肉が食べられる文化をつなぎたい」と思ったんです。子ども達の未来のために、何かに挑戦しないと後悔する、そう考えたのが大きな動機でした。


――さまざまなタイミングが重なったんですね。


神林 もちろん私はコンサルタント出身ですから、勢いだけではなく事業の持続可能性も考えました。 調べると、これまでのHRテック領域で携わってきたICTやIoT、AIと、養豚業で解決が望まれていた課題との親和性が高いことが分かりました。人の生産性を高めるために培ってきた技術がそのまま、家畜の生産性向上に応用できると分かったのです。 さらに、豚肉の市場規模は世界で40兆円もあり、ハムなどの加工肉を加えれば200兆円規模と相当に大きく、タンパク源の市場規模では世界最大級です。これはオートバイの市場規模よりも大きい数字です。しかも、牛や鶏に関する「酪農・畜産DX」はすでにあるのに、なぜか豚は先行者が見当たらず、競合企業・サービスが不在だったのです。 こうした経緯を経て、私が40歳のときに2017年、ITエンジニアと経営コンサルタントの専門家集団Eco-Porkは産声を上げました。


――リアルテックファンドとEco-Porkの関係はいつから始まったのでしょうか?


山家 2019年と2020年に1回ずつ、今年2022年に3回目の投資を行いました。いちばん大きい金額だったのが3回目で、資金調達の総額で約6億円です。シリーズAと呼ばれる投資フェーズで、私たちとしても、Eco-Porkは準備段階から成長段階へ入ったと判断して投資額を増額しました。



豚の循環型・経済圏を創る


――Eco-Porkはどのような社会課題を解決したいのか、もう少し具体的に教えてください。


神林 私たちが目指しているのは「次世代に食肉をつなぐ」ことです。 先述の通り豚肉の市場規模は大きく、循環型の豚肉経済圏と呼べるものを作れると考えています。これは、創業時から考えている大きな展望です。


左:株式会社Eco-Pork 代表取締役 神林 隆

右:リアルテックファンド グロースマネージャー 山家 創



循環型の豚肉経済圏を作るためには、課題が大きく2つあります。 1つは「そもそも生産量が不足している」課題。もう1つは「豚は人間以上に穀物を食べている」課題です。豚が世界で食べている穀物の量は、世界のコメの年間生産量の1.3倍、約6.1億トンです。


――想像を超える数字です。


神林 今、世界中の人口が増え続けていて、今後はさらに食料が不足していきます。食料危機が引き起こす世界の「栄養不足」を回避するには、豚などのタンパク源の供給をもっと増やすことが必要ですが、豚を増やすと今度は餌の穀物が必要になり、人間の食料まで減って、人類が滅びてしまうことになりかねません。それには、ムダになる餌を減らして、生産性を上げるしかありません。


さらに畜産業では、排出される糞尿が膨大な量になります。日本で排出されている牛・豚の糞尿は年間9000万トンで、コメの生産量の10倍相当です。これらは活用する道があるのですが、現状ではそのほとんどを分解して下水処理水に流し、捨てています。資源になり得るのに、とてももったいないことです。これらを活用すれば、循環型社会を作れます


――そういった社会課題を解決するために、Eco-Porkの事業はどのような展開をしていくのでしょうか?


神林 循環型社会を創る前にはまず、データを取得して測ることが先決でした。データが無いことには、分析もできず、生産性を算出することもできません。

レタスやいちごなどの植物工場はすでに存在していて技術も先行していたのですが、畜産業はまだ誰も生産性を定義できていません。AIに読み込ませる「教師データ」を取得しようにも標準プロセスなどの定義が無いため、業界として正しく生産性を測定することも困難でした。


それで私たちはまず、生産性を測るために養豚経営支援システム「Porker」を作りました。

Porkerは、養豚場の業務を「見える化」するためのあらゆる記録を蓄積できるSaaSです。タブレット端末等で豚の育成状況や作業記録、温度・湿度などを入力し、データを蓄積していくアプリです。養豚場は外国人労働者も多いので、言語によらず直感的に操作できるよう、UI(ユーザーインターフェース)をかなり工夫しました。


システムの開発では、協力してくれる養豚場の現場に私が自ら入り、業務フローを定義して、生産管理システムを作るところから始め、年間で豚200万頭分の教師データを集めることができました。画像診断AIを使い、最適な餌や水の量、豚の体重などを「測れる状態」をまずは作ったのです。


――Porkerにより、養豚業に広く役立つ客観的なデータを取得・活用できるようになったわけですね。


神林 はい、それが第1段階です。第2段階の現在は、AIを活用した生産量の向上と環境負荷の低減に取り組んでいます。


豚は、売れるタイミングの体重が決まっています。理由は省きますが、出荷時に96kgから116kgの20kgの幅に収めれば、1頭当たり約4万円の売上となりますが、そこから外れてしまうと格付がおちて販売単価が15%程度下がってしまいます。


そのため養豚業では体重管理が最大の肝なのですが、どのタイミングでどれだけの餌の量を与えればいいのか、一頭ずつ管理するのは膨大な労力がかかります。豚は世界で年間15億頭、日本では年間1800万頭も生まれていますから。人力では追いつけません。現状は経験頼りで、必要な餌の量の計測もあいまいですし、せっかく育てた豚が利益につながらないことも珍しくないのです。


――その課題をどのように解決しようとしているのでしょうか?


神林 生産プロセスの管理をAIに自動化させることで、解決することが可能です。Eco-Porkが開発したABC(AI Buta Camera:AI豚カメラ)は、「生体特徴情報推定技術」を用いた画像診断AIで、豚の生育情報や体重を自動的に把握・測定し、生産管理を可能にするカメラです。


このカメラをPorkerと連動させることで、情報の一元管理ができます。2021年の完成までに3年を要しました。それほど、今までにない技術で開発が困難だったのです。


ABCは、一頭ずつの豚の960カ所の特徴を図ることで個体を識別し、体重や筋肉のつき方、あるいは耳の色の変化から血圧や心拍数を把握します。


豚は常に豚舎の中を動き回っていて、しかもロボットカメラが移動しながら俯瞰のカメラで画像を捉えるため、豚の全身像を常に測定できるわけではありません。そのような悪条件のなかで個体を識別するために、見た目の特徴や動き方を捉えることで、個の認識を可能にするAI技術も開発しました。


また、母豚は一般的に1度に10~20頭ほど生みますが、栄養不足等のために死産で生まれる子豚も一定数います。これも育成状況を把握することで、どのタイミングで栄養不足になったのかが判断でき、改善につなげられます。


――養豚場がそれらの技術をトータルで導入すると、効果はどれくらい出るのでしょうか?


神林 農林水産省の「スマート農業プロジェクト」では、鹿児島大学やトヨタ自動車様などと実証を行い、弊社システム36万円の導入コストで、売上高換算で年間約7980万円分もの改善効果が生まれました。 そのプロジェクトでは、離乳した豚の数を示す離乳頭数の生産量が8〜14%も改善されました。生産性を測定し、給餌や温度・湿度などを最適化できた成果です。


――リアルテックファンドは、Eco-Porkのどんな点を評価していますか?


山家 テクノロジーで社会課題を解決していくことを理念とする当社では、Eco-Porkが社会課題に向き合う姿勢にもともと共感していました。


その前提のうえで、Eco-Porkの強みや魅力に感じている点は、1回目に投資した頃から変わっていません。「食肉や畜産の世界はまだまだ持続可能な体制になっておらず環境負荷が高いため、循環させる必要がある」との主張は一貫しています。


しかし誤解をおそれずに言えば、Porkerのサービスが単なるSaaS製品に過ぎなかったとしたら、Eco-Porkへの投資は行っていませんでした。Eco-PorkはPorkerを起点にして、カメラで豚の体重を自動計測することで生産性を上げ、養豚全体の自動化を目指しています。そこがとてもユニークで、他の企業にない魅力です。神林さんが自ら豚舎へ出向き、カメラの配置や施工まで行うなど、代表の事業にかける思いにも感銘を受けました。


一般のVC(ベンチャーキャピタル)ならば、手っ取り早くビジネス化できそうな「SaaSのPorkerだけをやってほしい」と考えるでしょう。一刻も早く黒字化し、利益を出すために、社内リソースを分散させないでほしいからです。しかし私たちは、テクノロジーによって社会が良くなることを目指して投資判断を行っています。Eco-Porkへの投資は、まさに私たちの理念に適合したのです。


――リアルテックファンドならではの視点ですね。


神林 私たちが時間と費用をかけてABCを作り、さらに先の自動給餌装置などのIoTにまで領域を広げているのは、生産管理全体を自動化しないと社会課題の解決にならないと考えているからです。Porker単体では、養豚家さんの一部のペイン(痛み)しか解消できません。また、汎用機器の寄せ集めでは、私たちの目指す完全自動化は難しく、全体の生産性は上がりません。バリューチェーン全体で生産管理をしないと意味がないのです養豚データの記録と、AIの管理と、IoTの機械・設備。この3点が揃っている必要があり、ソリューション全体の提供は現在、当社しか行っていません。


システムはすべてフルスクラッチ(自前でゼロから開発)で作りました。どの会社もやりたがらない「養豚のトータルソリューション」を私たちは志向していて、それをリアルテックファンドさんは評価してくれているわけです。



自らコトを仕掛け、切り拓き、交差点になれる人を求む


――今後はどのような展望を描いていますか?


神林 養豚場を完全自動化したあとのフェーズでは、資源の循環型社会を作っていきます。


また、すでに海外進出をしており、「スマート農業プロジェクト」の一環で、タイなどを中心に関係を深めているところです。特に東南アジアの国々は今後、GDPの上昇に伴い、タンパク質の摂取量が増えていくと予想されています。まさに今が社会の変わる潮目で、そこに私たちも参入していこうと考えています。


日本の養豚農家は2000年の1万3000軒ほどから、現在は3500軒ほどまでに減ってしまいました。3K職場と言われ、利益を出せない養豚場も多くあるのが現状です。しかし、Eco-Pork製品を導入した農家様の売上は、毎年平均で7%伸びているため大変喜ばれています。


タンパク質源として代替肉を開発したり、地球環境を考えて菜食に舵を切るのもいいでしょう。しかし私たちは、人類の選択肢の1つとして肉食文化を残したい。人間が何万年もの昔から続けてきた肉食を、持続可能なかたちでバージョンアップさせたいと考えています。


――採用にあたり、どんな人と一緒に働きたいですか?


神林 Eco-Porkの求める人物像は、「世界規模の社会課題に取り組みたい人」です。豚は世界最大級のタンパク源産業であり、そこに私たちは新しい豚肉経済圏を作っていきたいと考えていますが、養豚業にITの力はまだまだ活用されていないのが現状です。養豚の全工程において生産管理できるソフトは、私たちのPorker以前はありませんでした。


養豚データのスペシャリストも当然いないし、ICTとIoTとAI、ハードからソフトまで専門的な知見を横断して持っている技術者もまだ世の中にいません。それほど、当社の扱う技術領域は広いのです。


それには、各領域を横断できる「交差点の役割の人」が必要です。新しい技術や価値観を養豚業へと持ち込み、今までにない視点をもたらすことができる人を求めています。


もちろん、未知のことへのチャレンジには失敗がつきものなのは当たり前ですから、当社は心理的安全性を担保した上で、やり抜く力を求めます。


誰もやったことがない領域を自ら切り拓きたい人、コトを仕掛けたい人に、ぜひ来てほしいと考えています。


 

株式会社Eco-Porkでは現在、エンジニア(IoT・ICT・WEB)、企画、営業、管理部門社員を募集しています。 詳しくは以下をご覧ください。 ( https://career.eco-pork.com/


構成(インタビュー):山岸裕一