イノベーションの源は“情熱” - 超聴診器で遠隔医療の社会実装を目指す- Startup Interview #004 AMI



技術の力を、未来の力に──当社が支援する“リアルテックベンチャー”の代表や開発者に、解決したい社会課題や研究内容について訊くインタビューシリーズ。今回は「超聴診器※」という医療機器の研究開発を通して、遠隔聴診を軸にした遠隔医療サービスの社会実装を目指すAMI株式会社・代表取締役CEOの小川晋平氏とリアルテックファンドのグロース・マネージャー木下太郎(きのした・たろう)に、超聴診器の概要や、目指すべき未来の遠隔医療の姿について伺いました。


※ 超聴診器のうち、AI診断アシスト機能は医薬品医療機器等法未承認のため販売・授与できません。

<プロフィール> 小川 晋平(おがわ・しんぺい) AMI株式会社 代表取締役CEO 1982年大阪生まれ、熊本育ち。熊本大学医学部卒業。富良野協会病院で初期研修を経た後、熊本大学病院や済生会熊本病院などで循環器内科医として勤務。2015年AMI株式会社を設立し、代表取締役CEOに就任。 【企業サイト】https://ami.inc


※以下敬称略



人の耳には聞こえないレベルの心音までクリアに採取



ーーまず初めに、小川さんの経営するAMI株式会社が、今取り組んでいることについて簡単に教えてください。


小川 私たちが手がけているのは「超聴診器」という医療機器で、それを軸とした遠隔医療サービスの社会実装を目指しています。


ーー超聴診器ということは、その名の通り“聴診器を超えた聴診器”ということですよね? 


小川 そのとおりです。超聴診器が、これまでの聴診器と違うところは主に3つあります。

 1つ目は、心音だけでなく心電情報も同時に取ることができるということ、

2つ目はこれまでより圧倒的にクリアな音を拾うことができるということ。

そして3つ目が、超聴診器たる一番の所以ですが、「人の耳では通常聞こえない超低音域まで音を拾うことができる」ということです。


ーー “人の耳では通常聞こえない超低音域”が拾えることに、どんなメリットがあるのでしょうか。


小川 人の耳は、20 Hzから2万Hzの周波数帯の音を捉えることができます。一般的に人の耳で聴こえる音の高さの上限あたりは「モスキート音」と呼ばれ、それより高い音は普通の人には聴こえません。その逆に、低すぎる周波数帯の音も、人間の耳には聞こえないのです。

 まだ研究開発段階ですが、人の耳に聞こえない超低音を聴診器で捉えることで、心不全の徴候などがわかる可能性があります。これまでにも高周波数帯の超音波を使う医療器具はありましたが、低すぎる方の音はあまり注目されていませんでした。しかし私たちはその音域に、さまざまな心臓の病気の兆候が眠っている可能性があると考えています。

 超聴診器で捉えた音を、専用のAIによってデータ解析し、さらに遠隔医療につなげることで、多くの医師の診断のサポートに役立てて欲しいというのが私たちの構想です。


ーー超聴診器というハードを開発・販売するだけでなく、ソフトとしてのデータ解析・遠隔医療サービスも提供を予定されているわけですね。超聴診器は、すでに医療器具としての認可を受けているのですか?


小川 はい。2022年9月に厚生労働省の認可を受けることができました。販売名は「心音図検査装置AMI-SSS01シリーズ」で、心音図を表示・記録して一般の心音図検査に使用することを目的としています。2022年11月中旬の販売開始予定です(2022年10月12日時点 https://ami.inc/news/20221012 ※これは超聴診器ではありません)。

 データ分析の研究も、すでに全国20以上の医療機関と提携することで、1万2,000以上の心音の詳細なデータベースを確保することができました。それを使ったAIのシステムを構築しようとしており、その実装を手掛けるエンジニアのスタッフを、いま募集しているところです。



故郷を襲った地震が、決意を新たにするきっかけに


ーーまさにこれから新しいフェーズに入る段階ですね。そもそも、「超聴診器」を開発しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?


小川 理由は3つあります。1つ目は初期研修で行った富良野にある病院での経験です。


ーー「北の国から」やラベンダー畑で有名なあの富良野ですね。


小川 はい。西に滝川、東に帯広、北に旭川があるのですが、それぞれに車で向かおうとすると、「60キロ以上道なりです」とナビが言うくらい広大な場所です。私が研修で行ったその病院は、地域で唯一の総合病院だったので、半径30キロ圏内の救急患者が搬送されていました。ということは、救急車は最大で往復60キロも移動して、患者さんを搬送しなければならないわけです。搬送に時間がかかればかかるほど、患者さんが命を落とすリスクは高まります。「せめて最初に診察した地域医療拠点やドクターカーの車内から診察データを送れたら、病院に到着してから処置するまでの時間を短縮できるのに」と思いました。それで、遠隔医療の社会実装が必要だと考えるようになりました。


ーーなるほど。遠隔医療が入り口なんですね。2つ目のきっかけは?


小川 富良野から故郷の熊本に戻り、済生会熊本病院で勤務していた時のことです。その病院では、大動脈弁狭窄症の最新カテーテル治療法「TAVI」をいち早く導入し、目覚ましい実績を上げていました。それまで大動脈弁狭窄症は開胸手術しか治療方法がなく、術後もしばらくはICUに入院する必要がありました。ところが、TAVIでは翌日には体中の管を外せるのです。患者さんにとって、非常に負担が少ない画期的な治療方法といえます。しかし、そんな優れた治療法があるのにも関わらず、病気の発見が遅れたことで、助かるはずの命が助からなかったというケースが少なくありませんでした。この状況を何とかしたいと思ったのです。


ーー病気の「早期発見」という視点ですね。


小川 はい。「遠隔医療」と「早期発見」、この2つの医療的課題を解決したいと思い、2015年に大学院生として通っていた京都で会社を立ち上げました。


ーーそれが「超聴診器」の実質的なスタートですね。しかし、なぜ遠隔医療と早期発見の両方の課題を解決するツールが「聴診器」だったのでしょう?


小川 診察の基本は「問診」「視診」「聴診」「打診」「触診」の5つですが、現在の遠隔医療では「問診」と「視診」しか対応できていません。いきなり全てを実装するのは無理なので、まずは遠隔でも「聴診」できる仕組みを作ろうと考えたのです。


ーー3つ目のきっかけは?


小川 故郷を襲った2016年の熊本地震です。その頃、京都の大学院と鹿児島の病院を行ったり来たりする生活を送っていたのですが、ちょうど鹿児島にいた時に本震が起きました。医師として「これは行くしかない」と思い、勤務していた病院に頼み込んで、ドクターカーで被災地入りしたんです。


ーー被災地ではどんなことをされたんですか?


小川 現地にはすでに多くの医療スタッフが集まり、懸命に活動していました。しかし医療者も体を休めなくてはならないので、夜の避難所には、医療従事者が誰もいなくなります。でも夜のほうが、仕事などから帰ってくる人で、避難所の人数は多いんですね。そこで私は「夜専門の医者」として、各避難所を回りました。


ーーお医者さん版の「夜回り先生」ですね。


小川 はい、実際に避難所を回ると、どこに行っても大行列でした。と、同時に、「夜だったら手伝えるよ」というLINEメッセージが、全国の医師仲間からたくさん届いたんです。それを見て「これはもったいない」と思いました。もし遠隔医療のシステムが整っていれば、遠く離れている医療従事者も、その力を被災地の人々のために発揮できます。これから起こり得る災害のためにも、絶対に超聴診器を実現しようと決意を新たにしました。



情熱を持った仲間と“どこでも総合病院の医療”を実現したい


ーー熊本地震のときには、もう試作品は出来ていたのでしょうか?


小川 本当に手作りの、試作品段階のものはできていました。自分でハンダゴテを握って、マイクや心電モニターなどを取り付けて作ったのですが、素人ですからどうしても限界があるわけです。そんな時、同じ熊本大学で工学部の准教授をしていた山川先生と知り合いまして、一緒に試作を重ねることができました。


ーーリアルテックファンドとの関係はいつからですか?


小川 「第1回熊本テックプラングランプリ」の時ですから、2016年7月です。それこそハンダゴテで手作りしたものを、リバネスの丸さんと福田さんに見てもらったところ、「お医者さんがこんなものを作られるとは!」と驚かれました。


木下 僕はその場にはいませんでしたが、話は聞いています。丸たちから「小川さんは地元の熊本を愛されているのに、なぜ会社の本拠地を熊本に置かないのですか?」と質問されたそうですね(笑)


小川 そうなんです(笑)。何百人もいる会場で、「熊本に会社を移しては」と言われたので、僕もその場で「じゃあ熊本に移します!」と、ステージ上で宣言しました。


木下 無茶ぶりでしたね(笑)それがきっかけで自治体の支援が受けられることになり、水俣市での「遠隔医療ラボ」立ち上げにつながったんですよね。


小川 はい。勢いは大事ってことですね(笑)。木下さんはどういういきさつで当社の担当になったんですか?


木下 AMIや小川さんの話を聞いてすごく興味が湧いたんです。というのも、その頃、娘が1,000グラムの超未熟児で生まれて、3ヶ月間NICUにいました。私が生まれた頃では受けられなかった先進的な医療技術のおかげで、娘はいまでは元気にしています。そのようにAMIが目指す革新的医療の大切さを実感していた所だったので、ぜひ自分にやらせてほしいと直訴しました。


小川 そうだったんですね。木下さんには熊本でのキックオフの時からお世話になっているので、実質的にはスタートからの仲間だと思っています。


木下 そう言っていただけると嬉しいです!AMIは遠隔医療のため、実証事業を自治体と組んで行うなど、目指すビジョンが創業時から全くブレていません。その気概を持ち続けていれば、きっと海外でも展開できると僕は確信しています。市場としては、医療機器の本場であるアメリカを始め、東南アジアなども離島がたくさんあるので有望です。それこそ今のウクライナのように、離島ではないけれど医師が行けない場所はたくさんあります。そうした深刻な課題を、この「超聴診器」が中心となって解決してくれることを期待しています。


小川 その期待にぜひ応えたいと思います。投資をするかどうかを決める審査のときに、「一番の売りは?」と聞かれて、当時は技術もお金も人もなかったので「情熱です」と答えたのを覚えています。


ーー最後に、これからの展望と、「超聴診器」が社会実装された未来のイメージについて教えて下さい。


小川 単に「すごい聴診器」で終わらせるつもりはありません。遠隔医療を社会実装することが目標であり、そのためのキラーデバイスが超聴診器であると思っています。超聴診器をいろんなメディカルデバイスと連携することで、遠隔医療の質を高くし、離島でも僻地でも、どこでも誰でも、総合病院と同じような医療が受けられる世界を作りたいですね。


木下 それを一緒に実現してくれる“情熱”を持った仲間が増えていくといいですね。


小川 はい。私たちの“情熱”に共感してくれる方が、ぜひ当社の仲間となっていただければ嬉しいです。



 

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(リクルートページURL)https://ami.inc/recruit/


構成・撮影(インタビュー) いからしひろき