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2020年7月22日

なぜ地域金融機関が「ディープテック」なのか? / リアルテックホールディングス

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− 全国の地域金融機関と語る、地域の未来 −

【画像】オンラインヒアリング会の様子1

「庫内でどのように理解を得たのか、浜松いわた信用金庫さんのお話を伺いたい」

グローカルディープテックファンドへのLP参画について、庫内での検討の進め方に難航するとある地域金融機関の要望を受け、5月某日オンラインにて浜松いわた信用金庫様へのヒアリング会が実現した。 浜松いわた信用金庫様にはこの度グローカルディープテックファンドにLP参画を頂いている。 LP参画決定まで様々な障壁が考えられる中、どのような工夫を凝らしその壁を乗り越えていったのか。ヒアリングを要望された地域金融機関に加え、リアルテックファンドと地域金融機関の連携に関心がある、多くの地域金融機関にも参加頂いた。
当日はさまざまな切り口からの質問が飛び交った。浜松いわた信用金庫 新産業創造室のメンバーである渡邉氏、石塚氏、金子氏、そしてアドバイザーの小泉氏がそれにお答えする形でヒアリングが進められた。

◼︎参加金融機関一覧

  • 川崎信用金庫 
  • 中国銀行
  • 宮崎銀行
  • 広島銀行
  • 大垣共立銀行

◼︎登壇者一覧

  • 浜松いわた信用金庫 法人営業部 新産業創造室
    • 石塚昇平様
    • 金子洋明様
    • 渡邉迅人様
  • 浜松いわた信用金庫 法人営業部 ファンドアドバイザー
    • 小泉伸洋様

『具体的な連携提案により理解を得ることに成功』

地域金融機関A:今回のリアルテックファンドさんへの出資出資を決断されましたが、必ずしも地域金融機関による出資は一般的ではないと思います。どのような点を工夫されたのでしょうか? ​

金子様(浜松いわた信用金庫):
工夫した点としては、庫内の議論を詰める前にまずリアルテックファンドへの出資を通して何が期待できるのか、リアルテックファンドさんの木下さん、熊本さんから役員の方々に対して連携のご提案していただきました。例えば、浜松市にはもともと光技術を持った中堅企業が数多く所在しています。

光産業の既存の技術とリアルテックファンドの投資先の技術を結びけることができれば、さらなる事業展開の加速に繋がり、将来的に浜松市が最先端の光産業集積地になるという具体的なイメージを抱いてもらうことができました。
それが実現するしないに関わらず、リアルテックファンドさんへの出資で何をしようとしているのかを一度理解してもらうことが何よりも重要でした。

【図版】浜松地域中小企業との連携イメージ

提案資料より(実際の資料には中小企業名や製品、ベンチャー名を記載し提案)
石塚様(浜松いわた信用金庫):
当室を取り仕切る平井常務が他の経営陣に説明する機会の場に私と渡邉と金子の三人が立ち会い、リアルテックファンドさんを含めたVCさんへの投資のコンセンサスを得るための働きもしました。 ​

経営陣に提案する時にも「今のやり方のままではだめだ」というストーリーの立て方では響かないので、信金や地域に将来的な危機感がある中、今有望な技術に投資するVCにLP出資することによって、我々のソリューションや提案内容の幅が広がり結果として地域活性化に繋がるというストーリーで理解を得る工夫をしました。

【画像】オンラインヒアリング会の様子2
浜松いわた信用金庫 法人営業部 新産業創造室  右から 石塚氏、金子氏

地域金融機関A:新たな取り組みで切り拓く未来を理解してもらうことはひとつ重要なポイントですね。我々の場合、現場は熱を持っていてもこれを一緒に進めていく他の部署、経営陣を含めた仲間づくりに苦労しています。

渡邉様(浜松いわた信用金庫):
浜松いわた信用金庫は、様々な取り組みに挑戦しやすい環境ではありますが、初めからこのようなVC投資に積極的だったわけではありません。外部のアドバイザーも味方につけながら、客観的な目からみた信金の将来への危機感を意識してもらうよう努め、その上で「イノベーションを起こしていくにはリアルテックファンドのようなVCに投資していかなきゃならないし、人材も投資していかないといけない、そんな信金を目指していくべきだ」と。 ​

加えて、仲間になってもらえそうな少し上の方たちを地道にイノベーション関係のセミナーに誘い、他の会社の地方創生の先鋭的な事例などを根気強く話していきました。
「なぜ浜松いわた信用金庫がVC投資をやるのか」を掘り下げると、それは浜松地域の将来に繋がります。地域の危機感は信金の危機感と同義なので、「我々は本気でそれとどう向き合うのか」ということを突き詰めていくと、今回のLP参画のような新しい挑戦が答えのひとつとして出てくると思います。

【画像】オンラインヒアリング会の様子3
浜松いわた信用金庫 法人営業部 新産業創造室 渡邉氏

『大局的な視点に立てば、リアルテックファンドへの出資にはプラスアルファのベネフィットがある』

​ 地域金融機関B:うちの社内ではLPとして出資した場合にお金が地域外に出てしまうことがなかなか稟議が通らない原因にもなっているのですが、浜松いわた信用金庫さまの場合は懸念点として挙がらなかったのでしょうか? ​

石塚様(浜松いわた信用金庫):
我々の経営陣は、お金が一旦地域外に出たとしても、我々の動き方次第で周り回って地域や取引先にそれが還元されて、最終的に我々のベネフィットになるという考え方を一貫して持っています。 このため、出資したお金が地域外に出ることが決断を躊躇させる原因にはなりませんでした。それよりも、地域に閉じた企業さんと地域外の企業さんとのコラボレーションの結果地域に返ってくるベネフィットへの期待の方が大きかったです。実際、経営陣ともそうした理解を共有できています。

小泉様(浜松いわた信用金庫):
預金の内で有価証券運用に回っている部分は通常信用金庫だとおよそ50%ぐらいです。つまり預金の50%は既に地域外に出ているので、投資したお金が地域外に出ていくことを懸念しなくても良いのではないかと思います。しかもリアルテックファンドさんの場合、新たなソリューションを提案できる人材や、新事業創出に繋がる最先端の情報がプラスアルファのベネフィットとして地域内に返ってきます。地域を活性化させていくギアがVC投資によって強化されるわけですから、大局的な視点に立てばこちらの方がより良い運用の仕方です。 ​
どの信用金庫さんも運用の基準を定めていると思うのですが、そこにVC投資が入っている信用金庫さんはおそらくありません。通常の運用の目線からVC投資の話を進めることは難しいはずです。このため、「庫内と自分達のお客様に対して、どのように得た情報を使えば地域活性化に効果的か」という観点からVC出資を考えることが経営陣の理解を得る際の一つのポイントになると思います。

【画像】オンラインヒアリング会の様子4
浜松いわた信用金庫 法人営業部 新産業創造室 アドバイザー 小泉氏

『地方の時間軸とリアルテックの親和性の高さに期待』 ​

地域金融機関C:浜松いわた信用金庫様はこれまでのLP参画の中で感じられた課題はありましたか? ​

石塚様(浜松いわた信用金庫):
これまでも複数のファンドにLPとして参画してきましたが、現在はキャピタルゲインの観点だけではなく、地域外にもお金を回すことで得られる情報や人材などのベネフィットを地域の中で還元してイノベーションを起こしていけるのかという観点から出資先VCを選択しています。 ​
しかし、LP参画によって得た情報をどのように地域のお客様や庫内に還元していけばよいのか、これを可能にする仕組みがほとんど整っていないことが大きな課題だと感じています。

地域金融機関C:その課題感を踏まえた上で、リアルテックファンドさんと組もうと思われた理由何でしょうか?

小泉様(浜松いわた信用金庫):
地方の時間軸を踏まえると、地方の経済とリアルテック領域は親和性が高いと予想できたからです。スピード感のあるITベンチャーさんの場合、地方の時間軸と馴染まないことが懸念されますが、社会実装までに時間を要するリアルテック領域は地方のコアな技術も持つ企業さんとエコシステムを作りやすいのではないかと思います。

石塚様(浜松いわた信用金庫):
そうですね。一緒にそのエコシステムを作りながら「LP参画によって得た情報をどのように活用していくか」という課題を解消できるよう、情報を地域に還元していく仕組みも作っていければと思っています。

【図版】全国各地のモノづくり中小企業様との連携を通して、技術の社会実装を加速させる
提案資料より(実際の資料では各企業名を記載)

『庫内の「やらまいか精神」が最終的な追い風に』

某地域金融機関D:浜松いわた信用金庫様にはさまざまなことに挑戦しやすい雰囲気があると感じました。実際のところいかがでしょうか?

石塚様(浜松いわた信用金庫):
浜松いわた信用金庫は経営陣との距離が近く、先進的な取り組みに着手しやすい風土があり、とりあえずやってみようという「やらまいか精神」に基づいて様々なことに挑戦しています。今回のリアルテックファンドさんへのLP出資もそのマインドに基づいた挑戦です。 ​

金子様(浜松いわた信用金庫):
我々の所属する「新産業創造室」もその取り組みの一端です。メンバーには、チャレンジゲートというピッチコンテストを担当している者や、創業スクールの支援担当をしている者、シリコンバレーへ出向している者、これからシリコンバレーにいく者や今大学院に博士号を取りに行っている者など、様々な背景を持つ者が集まっています。加えて当金庫の顧問アドバイザーの方、大学教授の方やデザイナーの方に入って頂いています。 ​

個性的なメンバーばかりですが、「地域がどんなインパクトをもたらしていくか、地域の活性化のために私達がハブとなってどういう活動をやっていくべきか」という根本の問題意識は共通しています。リアルテックファンドさんへの出資もその一環という位置付けです。

某地域金融機関E:今後の地域金融機関の役割とはどのようなものだとお考えでしょうか? ​

渡邉様(浜松いわた信用金庫):
今回浜松いわた信用金庫は、地域の中小企業という閉じたネットワークの中だけでなく外に情報という資源を見つけに行く、その手段のひとつとしてVC投資を選択しました。なぜなら、信用金庫の井の中の蛙とも言える知識や、狭いネットワークだけで地域の企業様をご支援していくことに限界を感じていたからです。

地域を支援するためには、地域を外から見る目も必要だ、それが私達が出した結論でした。

私達はもちろん汗をかく、でも私達だけではできないことは、外の人を巻き込んででも実現する、これが地域金融機関の未来の姿ではないかと思います。私達の取り組みは、すべて成功するとは限りません、失敗もあると思います。ぜひ私達の地域金融機関としての新たな挑戦を知って頂き、仲間になってくれれば非常に嬉しいと感じます。

浜松いわた信用金庫様のグローカルディープテックファンドならびにグローバルファンドへのLP参画は、過去のVC投資やシリコンバレー出向などの地域のみならず世界を見据えた取り組みの延長線にある。 しかし、LP参画決定に至るまでの道のりは決して平坦なものではなかった。 庫内で地道に続けてきた啓蒙活動、外部のアドバイザーを挟んだ説得など、様々な努力の末に今回のLP参画が実現した。

地域金融機関の未来は地域の未来と必ず結びつく。
地域活性化を促進するエコシステムを構築するため、浜松いわた信用金庫様のみならず様々な地域金融機関の皆様との取り組みをリアルテックファンドは加速させていきたい。

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