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2021年3月19日

東南アジアの社会課題を解決するリーダーへ / リアルテックホールディングス

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– リアルテックファンドでの教育研修プログラムを通して荏原製作所が抱く未来 –

【画像】対談の様子

創立109年目を迎える株式会社荏原製作所(以下:荏原)は、既存事業の風水力・環境・精密・電子事業で培った技術や実績を活かし、新規事業開発に注力している。その一環で、2020年7月にリアルテックホールディングス初の海外進出となるグローバルファンド1号投資事業組合(以下:グローバルファンド)に出資し、東南アジアのディープテックベンチャーとの事業連携を目指す取り組みを開始した。一方で、社内で0からの新規事業に挑戦できる環境・機会は決して多くなく、各ベンチャーとの連携を加速できるリーダー人材の必要性がより高まってきた。そこで今回は荏原の新規事業を牽引する次世代事業開発推進部の杉谷周彦氏と、2021年1月より荏原が設計した教育研修プログラムを通じてリアルテックファンドにフルタイムで参加している小坂翔氏に、それぞれの想いを伺った。

■対談者経歴 ​

株式会社荏原製作所 マーケティング統括部 次世代事業開発推進部長
杉谷 周彦 氏
1996年慶応義塾大学法学部卒。1996年日本興業銀行入行。2002年より野村證券、モルガンスタンレー証券、シティグループ証券の投資銀行部門に13年間在籍し、M&A、資金調達のアドバイザリー業務に従事。2015年より荏原製作所に入社し、2017年に風水力機械カンパニー企画部長就任。海外企業買収、海外拠点設立、グループ内再編を担当。2018年より新規事業開発にも従事し現在に至る。

リアルテックホールディングス株式会社 / リアルテックファンド グロースマネージャー
株式会社荏原製作所 次世代事業開発推進部 マリンソリューション課
小坂 翔
2017年東京外国語大学国際社会学部東南アジア第2地域専攻卒。在学時は主にカンボジア王国の文化・歴史を研究。カンボジア王立プノンペン大学へ1年間の留学経験あり。荏原製作所入社後は、東南アジア子会社の経営支援に携わる。2021年度より現職。 ​

インタビュアー:
リアルテックホールディングス株式会社 / リアルテックファンド グロースマネージャー
熊本 大樹

社会の潮流を見極め、事業を開花させる

熊本
本日は「東南アジアの社会課題を解決するリーダーへ」の首題のもと、今回小坂さんにご参加いただいた教育研修プログラムについて議論していきたいと思います。まずは、杉谷さんにお聞きしたいのですが、東南アジアの課題解決に向けた想いや戦略について荏原の考えをぜひお聞かせください。

杉谷氏
現在、世界中に隈なく水が届けられているわけではなく、水不足により生活や産業が行き詰っている国々がたくさんあります。そうした課題がある中で、分散型の水を作れる装置を作ることで東南アジアの生活インフラの底上げを図りたいです。また、海水に恵まれている島国に対しては、自然エネルギーと海水淡水化の手法を用いて、末端まで水を届けられる環境を作りたいと思います。
エネルギーの分野にも注目しています。例えばインドネシアは世界有数の石炭輸出国ですが、近い将来、クリーンエネルギーへの転換を迫られるでしょう。そうした環境下で、インドネシアが豊富に有する海水から水素を作り、クリーンエネルギーに帰結させることもできると思います。そしてその水素を日本が輸入するような、アジア一帯での新たなエネルギーの供給網の構築を目指したいです。

熊本
私もシンガポールで人間の排泄物から水を作り出す「ニューウォーター」という概念に出会い、完全に閉鎖された環境化でどのように水や食を持続的に作っていくか、考えてきました。少資源国家であるシンガポールにおいて、フード・アグリ領域の技術は非常に注目されており、そこには「水」も深く関わってきますね。

杉谷氏
食の分野では荏原も現在、閉鎖型陸上養殖、つまり水を循環して、海の近くではなく山の中でも魚を養殖できることを目標としています。設備が過大になる分、いかにオペレーションコストを抑えて採算を取れるようにするかが最大の挑戦であり、確立できれば大きな産業となると信じています。実は荏原は10年以上前に新規事業に注力した時期がありました。燃料電池から風力発電、再生資源であるバイオマスからケミカルリサイクルが可能な物質(例:ポリ乳酸など)を作るシステム製作などを広範に手掛けました。現在は継続していないものがほとんどではありますが、そこで経験を積んだ人員や特許は現在も残っています。そうした過去に挑戦した事業を、東南アジア社会の潮流に乗せた形で開花させようと様々なアプローチを仕掛けていきたいです。

東南アジアの課題に最前線で向き合う仲間を求めて

熊本
そのような想いがある中で、荏原の長期ビジョンの要の一つに今回の教育研修プログラムがあると伺いました。改めまして、その背景を教えていただけますでしょうか。 ​

杉谷氏
新規事業の創出は2030年に向けて、荏原が掲げている重要施策の一つです。しかし現状では、新規事業のシード開発から実行までを担える人材は多くありません。課題の発掘・解決、技術の見極め、関係者の巻き込み、事業の立案・実行といった一気通貫したプロセスを推進できる人材を荏原内にも増やさなければならないと感じていました。そのような中で、グローバルファンドの代表である丸氏が語る「技術とビジネスをブリッジ」できる人材の育成という点に強く共感し、リアルテックファンドおよび荏原社内の関係者との調整を重ね、今回の教育研修プログラムを実施するに至りました。当プログラムでは、荏原の若手社員を派遣し、リアルテックファンドでのフルタイム勤務を経験することで、新規事業のシーズの発掘および一気通貫のプロセスを推進できるリーダー人材の育成を目的としています。

熊本
グローバルファンドについては、立ち上げ間もないフェーズにあり、まだ型が整いきっていない環境です。だからこそ、様々なチャレンジを一緒に乗り越えながら一気通貫のプロセスを経験していただけると思います。 そうした中で派遣プログラムに手を上げて頂いた小坂さんですが、そもそもなぜ荏原に入社され、今回のプログラムに応募したのか、ぜひ教えてください。

小坂
私は、大学時代に東南アジアの歴史や文化を研究しており、1年間カンボジアに留学していた経験から、東南アジアの課題解決や発展に貢献できる企業に入りたいと思っていました。荏原に入社後も東南アジアへの思いは変わっておらず、現地子会社のサポート業務などを中心に担当していました。その中で今回のリアルテックファンドへの派遣プログラムは自分にとって非常に魅力的な機会だと感じました。ディープテックベンチャーの起業家は、いわば東南アジアの課題解決に最前線で取り組んでおり、かつ同年代の方が多いと聞いていました。自分自身、直接そのような起業家達とのディスカッションを通じて事業アイデアの創出に取り組みたい。そして、リアルテックや荏原のエコシステムを活かして貢献したい。そう強く感じて応募に至りました。

熊本
熱いですね!小坂さんご自身は、どのような課題を解決したいと考えていますか。

小坂
今後様々なディープテックに触れていくと思いますが、特に私は「飲み水」の分野に注力していきたいです。私たちは毎日当たり前のように水を飲んでいます。しかし、カンボジア留学中には水道水を気軽に飲むことができない暮らしも経験しましたし、世界には現在でも6億人以上も安全な飲み水を得られない人々がいると言われています。さらに、今後世界の人口増加や産業の発展に伴い、安全な飲み水にアクセスできない人々がさらに増えていくのではないかと危惧しています。そうした事態を回避するには、飲料水に適さない水を飲めるようにする技術を提供すること、あるいは一から水を生み出すことが必要です。この課題解決に取り組むディープテックベンチャーと、水の分野で豊富に存在する荏原の技術を活かして、解決策を共に作っていけると私は信じています。

世界を変える熱と圧倒的な「裁量」

熊本
やはり荏原には、「水」へのアプローチを志す方が多いのですね。考えてみれば、小坂さんがリアルテックファンドに来てからもう2ヶ月がたちました。今の率直な感想をお聞かせください。 小坂 最も驚いたことは、メンバーの「熱」です。全員がベンチャーファーストの姿勢で、いかに早くその技術を社会実装するか、いかにその技術を支援してくれる人々と連携させるかを真剣に考えています。「技術で世界を変える」ということを第一に考えている人たちなのだと、一緒に働きながらそれを強く実感しています。既に東南アジアのベンチャーとの面談に同席する機会やコミュニケーションの最前線に立たせてもらっており、正直はじめは自己紹介のみで、一言も話せず終わってしまいましたが…。まずはリサーチやレポーティング業務が中心だと思っていたので、最先端の技術や同年代起業家に直接関われる機会は貴重だと感じています。 これまで働いていた大企業の環境とは全く異なり、仕事の進め方でも大きな違いを感じています。企業規模の違う環境に身を置くことによって、大企業とベンチャー企業間で意思決定フローや考え方の違いから起きうるすれ違いや衝突を事前に察知し、連携が生まれやすくなる体制構築についても荏原にしっかりと還元していきたいと思います。 加えて、今取り組んでいるのは「発信力」の強化です。事実を並べるだけの無機質な伝え方では相手を惹きつけることができません。いかに相手に興味を持ってもらい、行動を起こしてもらう発信ができるか、ベンチャーの技術や事業、想いを自分の中で「翻訳」しながら、人にどう伝えたらよいか意識しています。これまでは大きな看板に守られてあまり意識して来なかったのですが、知名度・訴求力が相対的に弱い組織では非常に重要な観点だと感じています。こうした「熱」と「裁量」を2ヶ月の中で強く感じており、早く戦力になれるようパワーアップしたいと思います。

【画像】集合写真

右から順に ・株式会社荏原製作所 マーケティング統括部 次世代事業開発推進部長 杉谷周彦氏 ・同上 マリンソリューション課 小坂翔氏  ・リアルテックホールディングス株式会社 グロースマネージャー 熊本大樹

「実践力」を獲得し、荏原製作所に還元する

熊本
杉谷さんは、小坂さんがこの2年間の派遣プログラムを通して、どのような人材に成長することを期待されていますか。

杉谷氏
キーワードは「当事者意識」と「主体性」だと思います。どうしても荏原のような大所帯の組織では、部署や階層によって業務範囲や役割がある程度決まってしまっており、自分の所掌を超えて業務を行いにくい状態になっています。時として誰かがやってくれているとの感覚を持ってしまうこともあるでしょう。一方でリアルテックファンドは、一人ひとりが大車輪となって何でもやる文化があると思います。そうした主体性、当事者意識に基づく行動力、言うなれば「強い実践力」を荏原に持ち帰り、周りを巻き込んで新規事業を引っ張っていく推進力を持った人材になって欲しいですね。 ​

小坂
まずは自身の能力の底上げと日々の業務から経験を蓄積し、より主体的に行動する癖を付けたいと思います。近い距離でベンチャーやその技術に触れられる立場にいるからこそ、自分自身で荏原との連携が期待できる東南アジアのベンチャーを発掘し、繋げる役割をしっかりと担っていきたいと思っています。とはいえ、ベンチャーと荏原との「掛け算」は数多く存在すると思いますので、いかに最適な掛け算を見つけるか、或いは最適な掛け算になるよう進めるかが私の使命でもあります。将来的には自分が信じた技術・チームが、荏原のみならず世界にとって重要な存在になれば最高です。

熊本
当社のグループ会社にあたる株式会社ユーグレナでは、未来のことを決める時には未来を生きる当事者も議論に加わるべきという信念のもと、18歳以下のCFO(Chief Future Officer 最高未来責任者)を任命し、会社の持続的成長に関する行動の提言を行っています。 そのように、極端に言えば今回の派遣プログラムについても、帰任後に小坂さんが最高未来責任者として経営会議や取締役会で様々な視点から提言できるようになったら素晴らしいですね。

東南アジアの課題解決に貢献し続ける

熊本
この先、気候変動や食糧問題をはじめとした様々な危機が続き、それを乗り越え新たな世界を共創していく上で、お二人にとってこれからの10年はどういったものにしたいですか。最後にぜひお聞かせください。

杉谷氏
2030年までに、社会に貢献できる価値ある新規事業を一つでも多く開花させて、あのリアルテックファンドとの取り組みがあったから、今この事業が存在する、荏原の中で新たなグローバル人材、サイエンスとビジネスを繋ぐサイエンスブリッジコミュニケーターがたくさん育った、というような布石を残したいですね。好きな孔子の言葉に「財を遺すは下、業を遺すは中、人を遺すは上」とあり、人材育成の意義深さが強調されています。人材を育成して後世に引き継いでいくことはこの先10年の大きなチャレンジと考えております

小坂
10年後には私は36歳ですね。この10年間は比較的自由に自分で考えて動ける期間なので、思い切った挑戦をしたいですね。その第一歩が今回のリアルテックファンドへの派遣です。ここで得た「実践力」を活かして、荏原に戻った後も新たな動きを次々に巻き起こしていきます。 ただ一つ言えるのは、10年たっても自分の中の「東南アジアへの貢献」という軸は変わらないと確信していますし、私のキャリアの原点である東南アジアの水問題には全力で取り組み続けたいと思います。これはおそらく20年・30年たっても変わらないでしょう。私の人生の使命の第1幕として、この10年は縦横無人に動いていきます!

熊本
ありがとうございました!この2年のみならず、10年かけて一緒に東南アジアの課題解決を推進していきましょう。

【画像】集合写真

教育研修プログラムを実施するにあたり、荏原製作所内では人事や法務など様々な部門の関係者の協力を得ました。右から順に

  • マーケティング統括部 次世代事業開発推進部 バイオソリューション課 赤石 衛氏
  • 法務・総務・内部統制・リスク管理統括部 法務部 事業法務課 利國 隆氏
  • マーケティング統括部 次世代事業開発推進部 マリンソリューション課 小坂 翔
  • マーケティング統括部 次世代事業開発推進部長 杉谷 周彦氏
  • グループ経営戦略・人事統括部 人事部 グループ人事サービス課 早田 敬佑氏

(※写真撮影時のみマスクを外しました。) ​ ​

企業概要

■リアルテックファンドについて

リアルテックホールディングス株式会社が、自社ならびに子会社の合同会社リアルテックジャパンを通じて管理運営するベンチャーキャピタルファンド。地球や人類の課題解決に資する革新的テクノロジー(リアルテック)の社会実装に取り組んでいます。2020年6月時点、参画企業は合計30社、ファンド規模は94億円です。
HP: https://www.realtech.holdings/

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